月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
「前例は僕がつくればいい」ロッテ・佐々木朗希の“歴史的な4月”…甲子園の興行主から白井球審まで、あまりの“規格外”に日本中がうろたえた
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKYODO
posted2022/05/02 06:02
完全試合試合達成を祝福される佐々木。今季は4月24日時点で5試合に先発し、3勝0敗、防御率1.50。昨季は11試合に先発し、3勝2敗、防御率2.27だった
夏になり大注目のなか岩手大会決勝を迎える。大船渡の國保陽平監督は登板過多を心配して佐々木を投げさせなかった。國保監督はアメリカの独立リーグでプレーした経験があり、将来を期待された選手が故障で苦しむ姿を見て、選手の健康管理にも注意を払うようになったという。だが佐々木を起用せずに敗れた大船渡には苦情が殺到した。
『苦情殺到 何で出さなかった パトカー大船渡に』(スポーツ報知・2019年7月27日)
紙面には強豪校の監督らのコメントもあった。
ADVERTISEMENT
「一番大事な決勝 理解に苦しむ」(渡辺元智・横浜高前監督)
「回避にびっくり」(大阪桐蔭・西谷浩一)
「佐々木君が出ていたら勝っていたかもしれない」(履正社・岡田龍生)
一方で当時評論家だった桑田真澄は《今回の決断を下すには大きな重圧があったと察します。それでもなお、エースのコンディションを優先させたことは素晴らしい判断です。》と語っていた。
あれから3年。千葉ロッテがじっくり育てることを引き継いだ。今回の「8回降板」も大論争にならなかったのは大船渡→ロッテの方針を多くの人が知っていたからだろう。
甲子園興行主の「登板回避」賞賛に違和感アリ
そんななか、朝日新聞は高校時代の決勝登板回避について社説で取り上げた(4月12日)。
《発達途上の高校生に無理を強い、故障させてはいけない。佐々木頼みのチームであってはならない――。監督の決断は社会の大きな話題となった。目の前の喝采よりも大事にすべきものがあるという考えは、確実に広がっている。》
ここまで読んで違和感を持った。だって朝日は夏の高校野球の主催をしている“興行主”ではないか。さらに、
《素質に恵まれた選手を激しく競争させることで力を引き出すやり方から、スポーツ医学を始めとする科学的知見を踏まえ、心身の着実な成長をめざす「育成」へ。》
とまで書いている。では夏の甲子園の過密日程や酷暑、球数問題などについて朝日は言及するのか? そう思ったら、
《全日本柔道連盟は今年度から小学生の全国大会の廃止を決めた。一部の指導者らにはびこる「行き過ぎた勝利至上主義」をなくすのがねらいだ。》
話を柔道にずらしていた。巧妙である。