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絶対王者・オジュウチョウサン11歳が復活…危険を伴う障害レースが、それでも“競走馬の救済の場”だと言える理由 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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posted2022/04/23 11:00

絶対王者・オジュウチョウサン11歳が復活…危険を伴う障害レースが、それでも“競走馬の救済の場”だと言える理由<Number Web> photograph by Photostud

4月16日、中山グランドジャンプを制してJ・GI最多勝記録を「9」に伸ばしたオジュウチョウサン

平地では得られない「人馬一体」の姿

 日本人騎手としてグランドナショナルに参戦(1995年)した唯一の騎手である田中剛調教師は、こう話した。

「ゲートを通すときにも言えるのですが、障害を跳ばせることによって、人と馬とのつながりができるんです。馬が障害を跳ぼうとしないとき、怖がっているのか、ズルくて嫌がっているのかを人間が察し、扶助に対する反応を探りながら気持ちを理解してやるといい。馬が障害を楽しみながら跳んでいるのが伝わってくることもありますよ」

 平地だけでは得られない、確かな「人馬一体」がそこにある。

 馬の脳の働き方によるのだが、馬は、同じものでも角度が変わると別の物体としてとらえる。ちょっと向きが変わるだけでも、脳に前頭前野がないため、それが何なのかを認識する前に、横っ跳びするなど反応する。そうして捕食動物から逃げて生き延びるよう進化してきた動物なのだ。

 だから、障害レースの返し馬では、騎手たちは騎乗馬を個々の障害まで誘導し、その横や後ろも見せている。

 障害でも平地でも、スタート前に輪乗りをするのは、いろいろな角度から周囲のものを見せることで、それが既知のものであると理解させ、落ちつかせる意味合いもあると思われる。

障害レースで高齢馬も活躍できるのはなぜか?

 そうした性質を有するサラブレッドが、返し馬で確認したとはいえ、飛越している最中には向こう側が見えない大きな障害を、人間の指示に従って跳び、脚元に大きな負荷のかかる状態でありながら、自分も鞍上の人間も怪我をしないよう着地する。それが障害レースなのである。

 このように、平地以上に強い人馬一体の走りが求められるため、スピード比べでは苦しい馬も、騎手の指示に的確に反応する走り方や、効率のいい飛越時のエネルギーの使い方などを習得することによって、第一線で走りつづけることができる。馬齢による衰えも、スピードに比べ、スタミナはゆっくりだ。障害はほとんどが3000m以上の長距離ばかりなので、競技寿命が長い。

 前述したように、オジュウチョウサンは11歳だし、カラジは、10歳時から12歳時にかけて中山グランドジャンプを3連覇した。

 障害がタフであることは確かだが、牝馬が中山大障害を勝った例も相当数ある。また、障害馬として唯一顕彰馬になっているグランドマーチスや、日本馬としてただ一頭、グランドナショナルに参戦したフジノオーという競馬史に残る障害の名馬もいる。

馬の新たな能力を引き出せる場所

 危険を承知のうえで、夢と名誉を追いかけながら稼ぐという点では、平地も障害も同じである。

 だからといって、危険を少なくするための努力が不要だと言うつもりはもちろんない。

 先日の落馬事故で負傷した騎手たちの一日も早い回復を願いつつ、亡くなった馬たちの冥福を祈りたい。

 繰り返しになるが、障害レースは「究極の人馬一体比べ」とでも言うべきものだ。馬の新たな能力を引き出す、平地とは別の道。

 今週も、障害レースは行われる。

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