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「えげつないパンチ力」で「凄くいい人」とゴロフキンを評する村田諒太…8年間、哲学書や“辰吉丈一郎の本”を読んでたどりついた“ある境地”とは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKYODO
posted2022/04/09 11:03
4月7日の記者会見で、最後に笑顔で“グータッチ”をしたゴロフキン(左)と村田諒太
「この本を表現するなら『ザ・辰吉』という言葉以外……」
「辰吉丈一郎の存在がなかったら、僕はボクシングをやっていなかったかもしれない。それくらい影響を受けた人。当時日本人最速となるプロ8戦目で世界チャンピオンになって、網膜剥離から再起後に世界戦での負けが続きながらも、シリモンコンと凄い試合をしてまた王座に返り咲くというストーリーは頭にしっかりと入っています。
この本を表現するなら『ザ・辰吉』という言葉以外、見つかりません。僕が想像していたとおりの本人の生き方、考え方、捉え方が書かれてありました。そこに新たな発見や驚きなんてなくていいと言いますか、むしろ『そうそうこれが辰吉丈一郎だよな』とイチイチ納得できて何だか心地良かったです。
人間はどうしてもカッコつけようと、完璧でいようとしがち。でも辰吉さんは真逆。飾らないし、やっぱり人間臭い。(中略)そういった人間力がスーッと説得力を持って心に入ってきます。ただ強いだけがボクサーの魅力じゃないんだと教えてくれます」
自己受容と、飾らない人間臭さ。
そういった言葉がどこか村田に重なる気がした。
明鏡止水の境地に近いと解釈できる
本によってただ知識を得て心に貼り付けただけではきっとそうならない。一つひとつを心に入れ、問答しながら自分なりに吸収をして心の栄養とする。この作業を延々と続けてきた。だからこそ“感情が動く”と語った冒頭のコメントは、むしろ明鏡止水の境地に近いと解釈できる。
村田とゴロフキン。
柴田明雄戦でプロデビューした2013年夏、憧れのカザフスタン人ファイターはWBA王者としてバッタバッタと対戦相手をなぎ倒していた。右も左も、ストレートもフックもオーバーハンドも。拳がうなれば誰もがひれ伏すしかなかった。
初接点はデビューから1年後のこと。ゴロフキンのトレーニングに、プロ5戦目を控えていた村田が渡米して参加した。パンチ力も、ボクシングのレベルも、そして人間力も、はるか上と認めたターゲットを、視界に入れた瞬間でもあった。
昨年11月にインタビューした際、彼は語っていた。