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「えげつないパンチ力」で「凄くいい人」とゴロフキンを評する村田諒太…8年間、哲学書や“辰吉丈一郎の本”を読んでたどりついた“ある境地”とは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKYODO
posted2022/04/09 11:03
4月7日の記者会見で、最後に笑顔で“グータッチ”をしたゴロフキン(左)と村田諒太
彼はいつも真摯に己の心と向き合ってきた
“ゴロフキン選手が真横にいて、いよいよこのときが来たんだなと実感しています。当日が楽しみでなりません”
それくらいの無難なコメントで終わらせたって全然構わないのに、「いろいろ感情が動く」だとネガティブな感情も込みだと受け取られかねない。しかし、即座にそれでいいのだとも感じた。
メンタルをコントロールするわけでもなく、これから湧き出てくるかもしれない負の感情と戦うわけでもない。気持ちを整理するだけでそのまま受け流しつつ、どこに到達するのか見守っていくような──。
彼はいつも真摯に己の心と向き合ってきた。そのためのアイテムが本である。
読者家として知られ、Number本誌では「王者の本棚」とのタイトルで1年半以上にわたって書評の連載を請け負ってもらっている。
書評に選ぶ本は心理学、哲学、宗教学などが中心
彼が書評に選ぶ本は心理学、哲学、宗教学などが中心。構成担当の私はその本を読むことで、心のうちの一端をのぞけているような感覚を持ってきた。
壇上の村田を眺めていくうちに、ある二冊が頭に浮かんだ。
一冊は『アドラー心理学を生きる』(川島書店)。翻訳者の今井康博氏とは交流もあって、折に触れてアドラーの考えを教えてもらっていたという。
「私自身、アドラーから多くのことを学んできました。その一つとして彼は自己受容の大切さというものを教えてくれています。自己認識をしたうえで肯定するまでいかなくても、自分を受け入れるということ」
そしてもう一冊は、辰吉丈一郎の『それでもやる』(小学館)。普段、ボクサーやアスリートの自叙伝を読むことはないそうだが、とても感銘を受けていた。
書評を長めに抜粋したい。