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《単独インタビュー》村田諒太36歳が明かした、ゴロフキン戦直前の“意外な本音”「情けない自分も見えてくる。ただ面白い」
posted2022/04/08 11:02
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Kentaro Miyazaki
運が良いのか、それとも悪いのか。
待って待って待ちわびて、ようやく実現に至ったのに、また遠ざかった。
昨年末、新型コロナウイルス「オミクロン株」の猛威が襲いかかった。水際対策に伴って新規外国人の入国が原則停止となったため、村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンによる日本ボクシング史上最大のメガマッチ(12月29日、さいたまスーパーアリーナ)は、試合まであと1カ月を切っていた段階で延期が決まった。開催時期は「来春」とだけ示され、状況がめまぐるしく変わる世界のボクシング事象を考えればそのまま流れてしまう可能性だってあった。
心にドスンと受けたパンチを村田はどのように受け止めたのか。当時の心境を尋ねると、言葉より先に苦笑いが飛び出した。
「しゃーない。もうそれしかないですよ。だって何か自分のせいでこの機会をフイにしていたら気持ちとして耐えられないと思うけど、そうじゃない。(新型コロナウイルスという)自分にはどうしようもできないこと。自分のせいじゃないと思えただけで気持ちは意外にも楽でした」
気持ちが勝手にマイナス方向に行ってしまったらそれこそ意味がない。世界的なプロモーターである帝拳ボクシングジムの本田明彦会長がリスケに尽力してくれていることは誰よりも分かっている。2年以上もリングから離れ、メガマッチの緊張状態が続くのは未知の領域。「しゃーない」と割り切って前を向いていくしかなかった。
試されているのだと思えた。
春に開催できたとしても3カ月以上も後ろ倒しになるのであれば、短いオフを取ってリセットするやり方もあったはず。だが彼はそうしなかった。
試合延期が“プラス”になった部分
メキシコからのスパーリングパートナー、アドリアン・ルナとホセ・デ・ヘスス・マシアスはコロナ禍で入国自体が遅れるだけでなくその後の隔離期間もあって、彼らと本格的なスパーリングを始めたのは11月下旬だった。つまり試合が12・29ならば急ピッチで実戦練習を仕上げていかなければならなかった。
延期がプラスに出た面で言えばまさにここ。いつものルナに加えて今回初めて招聘したマシアスには、ゴロフキン戦を控えたサウル“カネロ”アルバレスのスパーリングパートナーを務めた経験があった。基本的には1日置きにスパーリングをこなし、クリスマスも正月も関係なく、2人と拳を交えることができた。
「十分にスパーリングを積めて、実戦感覚もいい感じでつかめている。もちろん本番は10オンスのグローブ、ノーヘッドギア、ましてやゴロフキンですから試合をやってみないと分からないところはありますよ。でも、特にマシアスは凄くパンチ力があるのでもらっちゃいけない緊張感があるし、ゴロフキンに似たところもある。2人のおかげで凄く緊張感を持ってやれている」