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野球クロスロードBACK NUMBER
“投手分業制”で強豪に育てた監督の信念すら…近江・山田陽翔は“賛否とは別次元の男”「『エースで4番でキャプテン』だと自覚している」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/04/02 17:03
センバツで近江・山田陽翔が投げた594球。多賀監督はこれまで“投手分業制”を採用してきた指導者だった
「野手陣が絶対に山田に応えないと」
副キャプテンの津田が、セカンドのポジションから何度も野手を鼓舞する。
「山田の『まだまだいける』って気合が入っている姿を見て、僕らも『引っ張らないといけない』ってスイッチが入りました」
ベンチで指揮する多賀は、試合中にも関わらず感情を抑えきれなかったと明かした。
「甲子園という舞台が山田をそうさせているのかもしれませんけど、甲子園以外でも本当に感動させられる場面が多くて……。涙が止まりませんでした」
延長11回、170球。この試合も山田はひとりで投げ抜き、近江を勝利へと導いた。
「残された116球」。決勝の朝、山田は言った
残り116球。準決勝までの3試合で45安打、33得点、7本塁打と強打の大阪桐蔭相手に完投できる球数ではない。それどころか、満足に投げられないことを、決勝戦が始まる前に山田は理解していた。
決戦の朝。監督に左足の状態を正直に告げた上で、「足を固定すれば何とか投げられます」と、先発を志願した。
キャッチャーの大橋とは「低めに変化球を集めて打たせて取ろう」と意思を通わせ、それなりに再現性を保つことはできた。しかし、相手は一枚も二枚も上手だった。
「最後までマウンドを守り切れなかったのは、とても悔しかったです」
試合は1-18の大敗。滋賀県勢、近江にとっても初めての悲願は果たせなかった。
山田の想いを継いで登板し、14失点と打ち込まれた星野は「山田をずっと投げさせたのは自分のせいでもあるので悔しい」と頭を下げる。内野の要の津田も、「ああいう形で山田を降板させて申し訳なかった」と嘆いた。
「夏にとっとこうな」。近江の中心に山田がいた
監督と選手。誰もが大黒柱に信頼を寄せた。
山田のために。
チームの想いを血肉とし、奮闘した近江のエースで4番のキャプテンは、責任を成長の糧とするように、言葉を結ぶ。
「『監督さんを日本一に』と思っていたんですけど、信頼に応えられませんでした。『夏こそは』という想いが強くなりました」
甲子園が燃えた春。
近江の中心には山田がいた。監督の多賀が、今とこれからの歩みをしみじみと紡ぐ。
「山田を見て心を打たれるものはあったかと思います。この結果を受け、山田以外のピッチャーという鮮明な課題も見えましたから。夏は元気な姿を決勝で見てもらうために、僕も後押しできたらな、と思います」
歓喜に沸く王者、大阪桐蔭。
現実を真っすぐな目で見つめている山田に、監督が新たな活力を与える。
「夏にとっとこうな」
「はい」
栄光への道中は険しい。
だからこそ近江は、焦らず、歩む。
琵琶湖を渡るのなら、急がば回れ、と。 (大阪桐蔭編につづく)
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