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「アートの一部」「効果的に利用した」不誠実な駆け引きを自画自賛のコミッショナーに、深まる一方の不信感《メジャー新協定妥結》
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph byGetty Images
posted2022/03/17 11:01
昨年、交渉が決裂した際に笑顔を見せ、ファンの反感を買ったマンフレッド・コミッショナー。新協定妥結後はファンに謝罪したが……
昨年12月にロックアウトとなった後、選手会に対し、オーナーが代替案を提示したのは43日後の1月13日だった。その間、事態が進展するはずもなく、ただ月日が流れるのを待つだけの日々が続いた。2月3日にはオーナー側が、労使紛争などを解決・管理する独立行政機関米連邦調停局(FMCS)に仲裁を要請した。球界とは無縁の第三者機関の力を借りようとする無責任さに、直接交渉を主張する選手会内部の反発はさらに高まった。
さらに2月下旬、フロリダ州ジュピターで行われた9日連続の対面交渉では、再三のように「デッドライン」をちらつかせ、譲歩を迫った。「世界最強の組合」と言われるMLB選手会が、そんな圧力に屈するはずもなく、デッドラインを超過。マンフレッド・コミッショナーは「少なくとも開幕から2カードの中止」を発表した。その後は、再び一方的に「デッドライン」を設定し、前言撤回とも言える162試合実施を交換条件に引き出すなど、理解しがたい駆け引きを繰り返した。
多くの課題は棚上げされたまま
今回の労使紛争に、おそらく勝者はいない。選手会のトニー・クラーク専務理事は、妥結後、コメントを発表した。
「私たちの組合は、現在の選手の権利と利益だけでなく、今後の世代の権利と利益を改善する重要な分野で重要な進歩を達成するために、歴史上、2番目に長いロックアウトに耐えてきた。最初から最後まで熱心に取り組み、共闘し続け、その過程で私たちの友愛を再び活性化させた」
また、同理事はロックアウトを「経済的な最終兵器」と表現し、「彼ら(機構・オーナー側)はそれを我々に使った」と、強い言葉で不快感を表した。
今後も、ピッチクロック導入を含めたルール改正、国際ドラフトの導入を巡る双方の折衝は継続される。無事に開幕するとはいえ、コミッショナーへの不信感と双方の深い溝は、一向にクリアになっていない。