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「翔平には“無制限”が必要だった」“二刀流”を信じ続けたエンゼルス指揮官が明かした「大谷翔平との対話」《単独インタビュー》

posted2022/03/14 11:01

 
「翔平には“無制限”が必要だった」“二刀流”を信じ続けたエンゼルス指揮官が明かした「大谷翔平との対話」《単独インタビュー》<Number Web> photograph by Getty Images

大谷翔平の二刀流での挑戦を支え続けたエンゼルスの知将、ジョー・マドンが明かす“対話”の真実

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笹田幸嗣

笹田幸嗣Koji Sasada

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2021年、リーグMVPに輝くなどの活躍を見せた大谷翔平。異次元のプレーの数々は、指揮官との幾重もの対話によって生まれてきた。その揺るぎない関係は如何にして築かれたのか。“二刀流”と歩んだ昨シーズンを名将ジョー・マドンが振り返った。これまで有料公開されていたインタビュー記事を特別に無料公開します。【初出『Sports Graphic Number』1040号(2021年12月2日発売、肩書などはすべて当時】

 ジョー・マドン監督は開口一番、今季の大谷翔平をこんな言葉で表した。

「Spectacular」

 壮観であり壮大。指揮官は続けた。

「これが最も究極的で適切な形容詞だと思う。シーズン開始前、私とペリー・ミナシアンGMと翔平とで基本的なルールを設けた。私たちの基本的なルールとは、『基本的にルールはない』ということ。つまり本人の自由にさせるということだ。ただ私もペリーも、彼が打者としても投手としても、これほどのレベルで活躍が出来るとは思っていなかった。彼は1日の大半をフィールドで過ごしている。毎日だ。この耐久性、献身性はとうてい過小評価できない。出場するのがやっとという選手がいたり、投手としてまだまだの選手がたくさんいる中で、彼がやっていることは壮大なことなんだ。彼が成し遂げたことは信じがたいほどに素晴らしいとしか言いようがない。来年も同じことができるようにしたい。今、彼がしていることを決して見逃さないでほしい。素晴らしい一年になった」

 投手として9勝、防御率3.18、156奪三振。打者として打率.257、46本塁打、100打点、26盗塁。投打同時出場も20試合で果たした。両部門でリーグを代表する成績を残し、出場試合数は投手登録でありながら158にも及んだ。この数字は今季メジャー全体で18番目。もちろん上位17選手は全員が野手だ。選手にとって最大の貢献とは、試合に出続けることである。何よりも評価されていい数字がここにある。

 今季の大谷の躍進において、決して見逃すことができないのが出場制限を取り払ったことだ。登板前日も翌日も出場はいつでも青信号。そのために監督と大谷と水原一平通訳は、毎日、コンディションについて包み隠さずに話し合った。67歳の知将と27歳の若者が築き上げた信頼関係は完璧だった。言葉で表すほど簡単な作業ではないはずだが、揺るぎない関係を築き上げたことが歴史的パフォーマンスへと繋がった。

「翔平はどうすれば自分らしくいられるかを知っている」

「彼はメジャーリーガーの中でもかなりユニークなシナリオを描いている。私は彼ではないので、何が彼にとってベストなのかはわからない。私は、彼や他の選手に対しても、心に何か疑問を抱かせるようなことはしたくない。やっているのは選手なのだから、選手の気持ちを理解すれば正直に話してくれるし、それが信頼の大きな礎になると思っている。それはシンプルなことだ。翔平はどうすれば自分が自分らしくいられるかを知っている。世の中には、分析や数字が関係していることが多すぎる。今の野球界は選手のハートビート(心臓の鼓動、生命)、つまり本質を軽視し、数字に依存している。人にはそれぞれ個性があるんだ。コンピュータの分析結果を優先するがあまり、その選手が持っている本質が軽んじられている。プレーするのは人間なんだ。誤解しないでほしいが、私は数学は大の苦手だが、分析や数字を信じていないのではない。しかし、決して忘れてはならないのはハートビートなんだ。心臓の鼓動は誰もが異なる。状況もみんな異なる。表面的なサンプルだけでなく、私はトレンドを信じている。これまでの経験を通して、パズルを組み立て正しい結論を出そうとしなければいけない。我々がやったことのないことで彼もやったことのないことに対して、制限を設けたり、彼自身が考えてもいないことを私に考えさせようとするのはおかしい。私が思うに、それは悪い子育てであり、悪いコーチングであり、悪いマネージメントだ。他人のことなのに、何が良いことなのかを知っていると勘違いしている人が多過ぎる。私はその正反対の人間だ。私は『あなたにはこれがベストだ』と言う人に対して、とても腹が立つ。そんなことを私は選手たちにはしたくない」

 名将は自身の野球哲学に触れながら熱く語った。マドン流コミュニケーションの真髄と言えた。

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