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悩める高校球児たちの進路事情…プロ野球側の決まり文句「育成契約でいいですか?」球児の親は「高校監督の要求に従わず“出禁”になった」 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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posted2022/03/16 17:04

悩める高校球児たちの進路事情…プロ野球側の決まり文句「育成契約でいいですか?」球児の親は「高校監督の要求に従わず“出禁”になった」<Number Web> photograph by AFLO

高校球児の「野球的進路」については、プロ野球、社会人野球、大学進学、独立リーグと、ざっくり言って4つがある。最近の高校球児の進路についての悩みとは?(写真はイメージ)

「本気でプロ一本で目指してる子には、社会人を勧めてます。社会人野球の選手は育成ドラフトの対象外だからです。大学生は育成ドラフトでも指名されるでしょ。それに、社会人のほうが採用人数がずっと少ないから、大事に育ててくれます」

 しかし、近年、高校球児の社会人入りは、おそろしくハードルが高いと聞く。

 社会人のチーム数が、最盛期の3分の1ぐらいに減っている上に、大学生には優秀な選手が増えている。企業は、早い時期から使えそうな大学生の採用を、どうしても優先する。

「高校通算20、30本ホームラン打って、(50m)5秒台で走れても、左打ちの外野手は断られます。『ウチにもそういうの、何人もいますよ』ってね」

 今シーズンも、アマチュア野球の先陣をきって、すでに社会人野球東京大会(スポニチ大会)が行われたが、出場した16チーム90人のルーキーの中に、いわゆる「高卒ルーキー」は7選手だけだった。

「大学生なら即戦力になって、高校生は時間がかかる……っていうのは、昭和の言い伝えに過ぎないんですけどね。今の強豪の高校生は、実戦で150キロ近いボールを投げたり、打ったりしてきて、レベル高いですよ。今年のスポニチ大会でも、東芝の西村(王雅、智弁学園高)が先発して5回無失点に抑えたり、1年目の春から立派に戦力になっている。即戦力は大学生っていう妄想から抜け出して、もっと高校生にも目を向けてほしい」

(3)大学進学で「条件は?」…ある大学監督の苦言

 高校球児の進路として、最も多いのが「大学進学」だが、こちらは大学野球の現場をあずかる指導者の話が興味深かった。

「高校生に声をかけると、必ずといっていいほど、監督さんから『条件は?』って、問い返しがある。入学金、授業料は無料なのか?寮費はどうなのか?と。特待生ってやつですね。ウチも何人か特待生の枠があるけど、戦力的にみて、どうしても!っていうほんの数人であって、高校の監督の中には、声をかけてきたってことはイコール特待生って、大きな勘違いをしている人がたくさんいるんです」

「特待生制度」とは、本来、その大学への進学を熱望する優秀な学生で、経済的に進学がきびしい家庭の師弟について適用される制度でなくてはならない……その大学監督は、熱を込めてそう言いきる。

「私らの力不足もあるんだけど」

 と、ことわって、

「特待生です、さあどうぞ……って、ポジションもレギュラーも用意されていて、オレは入ってきてやったんだ、って、勘違いをして入学してくる学生もいるんです。学生野球はあくまでも、社会に出る一歩手前の教育だと思ってますから。そういう心得違いの学生には、当然のこととして厳しく指導するんですが、そうすると、ここは自分には合わないとか言い出す。たとえば、ピッチャーならけん制やバント処理ぐらい、エチケットとして高校で教えておいてほしいな、と思うことがありますけど、同じような意味で、大学に進むにあたっての“心構え”も指導してほしいな…って、痛切に思いますね」

(4)独立リーグ「建設途中のマンションが寮でした」

 独立リーグという名の「プロ野球」に進むという進路は、以前はなかった選択肢だ。こちらは高校の指導者の証言。

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西村王雅
東芝
智弁学園高校

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