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悩める高校球児たちの進路事情…プロ野球側の決まり文句「育成契約でいいですか?」球児の親は「高校監督の要求に従わず“出禁”になった」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2022/03/16 17:04
高校球児の「野球的進路」については、プロ野球、社会人野球、大学進学、独立リーグと、ざっくり言って4つがある。最近の高校球児の進路についての悩みとは?(写真はイメージ)
「本当は進学したいんだけど、経済的に苦しい家庭の生徒で、残念ながら社会人野球とも縁がなかった。だけど、どうしても野球で身を立てたい、それしか道がないっていう生徒にとっては、僕はありがたい存在だと思ってます。野球もプロも、まだ挑戦できる時間をいただける。高校で、夢をあきらめないで済みますから」
最初、四国4県で始まった独立リーグは、なかなかスポンサーが見つからなかったり、観客が増えなかったり、アゲンストの風に見舞われながら、いまでは北信越、関東に加え、関西、九州や北海道にも独立リーグのチームが結成されて、選手たちも関係者も、懸命な運営が続けられている。
「私も以前、選手がある独立のチームに進むことになって、施設を見に行ったことがありますけど、そりゃあすごかったですよ、逆の意味でね。建設途中でストップがかかったマンションですよ。電気の配線もむき出し、エレベーターも筒だけあって箱が付いてない……そこが寮でした」
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今はそこまでではないだろうが、決して恵まれた環境とはいえないとも聞く。
「でも、練習や実戦での本気度だったら、社会人以上だと思いましたね。もう戻る所のない瀬戸際の切迫感っていうんですか。本気でプロを目指すっていうのなら、そういう雰囲気の中で自分を鍛えてみるっていうのも、ずっと将来のことを考えると、若い頃のある時期には悪くないのかなってね」
球児の親の叫び「高校には出入り禁止みたいになった」
最後に、進路を選び、実際にその道を進んでいく選手の保護者の“叫び”を記しておきたい。
「私のせがれの時には、ほんとに苦労しました。進学希望だと言ったら、(高校の)監督が進学先の候補の大学を4つ挙げて、この中から選べっていうんです……。進学は一生のことですから、もちろんこちらも調べていました。せがれは左投手でしたから、左投手が伸びている大学、一般で就職する場合のことも考えて……一緒にいくつかの大学を探し出して。そんなに笑われるような選択じゃなかったはずですが、(候補ではない大学のため)希望は認めてもらえなくて。でもやっぱり、生きていくのは本人ですから、希望を貫いて、それでよかったです。ただ、高校には出入り禁止みたいになってますけど」
鼻から下は笑ってくれたが、目は笑っていなかった。
「強豪で、いい選手たくさん出してるはずなのに、OBが大学でぜんぜん出てこないチームってありますよね。そういう高校じゃないですか……?」
この話をしたとき、ギクッとするようなことを口にしたのが、大学の指導者だったから驚いた。
見抜いているのだ。
あと半月ほどすれば、今年も4月。
高校、大学、社会人のグラウンドにルーキーたちが参集する。
その中の何人が、自ら調べ、学び、選んだ進路に進んだのか。
情報のあふれる世の中といわれるが、情報は一度は疑ってみながら調べ、ほんとのところを知り、自分のためになって初めて「情報」となる。
そして、次のステージに挑む者の最も強力なモチベーションとなるのは、進む先についての「納得」であろう。