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<22年間の激走を語る>福士加代子「マラソンのラスボス、倒せたかな」
text by

近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2022/02/25 11:01

どう終わりたいのかをずっと探していた
「そう思っていたんですけど、一等賞を獲るってことはすごく調子がいいってことじゃないですか。だからそんな時にやめられるわけねーだろ! って気づきました。
'16年の優勝の後は走るのをやめて、OL生活を全うしようとした時期もあったんですよ。でも3カ月が限界でした。いろんな部署を訪ねてあいさつ回りが一通り終わると、昨日もこの人たちと喋ったじゃん、変化がないな、やっぱり東京オリンピックに一応チャレンジします、ってなりました」
――とは言うものの、'13年モスクワあたりから'16年大阪ぐらいまでがマラソンにおける福士さんの黄金期だった気もします。その後はかなり苦しんだ部分もあるのでは?
「もうしんどい、しんどい! 毎日どころか毎分、コーチに言ってました。もうやめる! って。で、コーチはコーチで『やめろよ。お前。そんだけ言うなら』って毎回返事してくれるんですけど、そこでハッと我に返るんですね。あー、そっか、私まだやめたくないんだなって」
――けっこう面倒臭いですね(笑)。
「自分はランナーとしてどう終わりたいのかをずっと探してました。みんな言うじゃないですか、ダメになってきてるからこそ、良い状態の時に終わろうって」
――心のどこかにはまだ、ガチで頑張って一等狙っている自分がいるわけですね?
「そうです。ガチでやって失敗して。で、なんかちょっといい加減にしたら意外と勝ったりして。ってことはもうちょっと手を抜いたらいいのかなと試してみたら、本当にダメで。そんな試行錯誤を繰り返すうちに、今はもうすっからかん、さすがに奇跡は起きません! ってところまで来ました」
――トラック競技でいくつも栄光を手にしてきた福士さんですが、マラソンは難しい、全く別物だ、ってよく言ってましたね。
「トラックはやった分だけ結果が出ます。ハーフマラソンもまあその延長です。じゃあハーフができたんだから、マラソンもいけるかというと、そうはならない。
でも同時に、マラソンは伸びしろしかないとも思ったり。やり方や考え方次第で、誰でもちょっとずつ伸びるから。でもそれが具体的になんなのか、はっきり分からない。その時その時で答えが異なる。考えすぎると、もう練習が嫌で嫌で仕方なくなる」
――複雑な競技ですね。
「いや、簡単なんですよ。だって走ること自体は簡単でしょ。横断歩道の信号がチカチカってなったら誰でも走る、マラソンなんてその延長じゃないですか。でしょう? でも、それを2時間もできますか? ずっと信号がチカチカしてるなんて……。それならやっぱり違う道を行こうかなと考えてみたりする。ただ走るだけ、そんな簡単なことに、なんで自分はここまで気難しくなってるんだろうって」
――やっぱり福士さんの性格はマラソンに向いてなかったのかもしれませんね(笑)。