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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
桑田佳祐は「日本ロック界の長嶋茂雄」である… 名曲『栄光の男』から推察する、ミスターへの応援メッセージとは
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byGetty Images
posted2022/01/29 17:02
日本ミュージックシーンのレジェンド、桑田佳祐。Number997号の表紙を飾ったことも
桑田佳祐以前のロック/ニューミュージック界には、しみったれて貧相な顔付きの音楽家がほとんどだった。そして長嶋茂雄が対峙したのは、戦前からの辛気臭い精神野球・根性野球の世界だ。
「たかがロックじゃないか、たかが野球じゃないか。結局はエンタテインメントじゃないか。なに難しい顔してやってんだよ」と言わんばかりの、桑田佳祐、長嶋茂雄による明朗で快活な「プレイ」があってはじめて、ロックとプロ野球は、日本人にとっての「エンタメのど真ん中」となり得た。
だから、ロック人/野球人、それぞれたった1人を選ぶとすれば――桑田佳祐と長嶋茂雄、だと私は考えるのだ。
桑田佳祐が長嶋茂雄を歌った曲と言えば
いくつかある桑田佳祐の「野球仕事」の中で、格別なものを一つ挙げるとすれば、サザンオールスターズ『栄光の男』(2013年)だ。そして、この曲の歌詞には何と、長嶋茂雄が登場する。
――♪ハンカチを振り振り あの人が引退(さ)るのを 立ち喰いそば屋の テレビが映してた
言うまでもなく「あの人」は長嶋茂雄で、「テレビが映してた」のは、1974年10月14日、長嶋の引退セレモニーである。
アルバム『葡萄』(2015年)のオフィシャルブック『葡萄白書』において、『栄光の男』を作った経緯について、桑田佳祐はこう述べている。
《私は青山学院大学に入学して花の楽しいキャンパスライフを夢見ていたが、現実は特にモテることもなく、何をやっても思い通りにいかず、モヤモヤとした気持ちを抱えていた。ある日、喫茶店に入ると、長嶋さんの巨人軍引退試合が映っていた。それを見ていたら「こんなはずじゃ無かった」という思いがこみ上げて、涙が零れていた。》
『栄光の男』の主人公はショボクレている
そこから、サザンオールスターズとしてデビューし、呆れるほどの「革命性」「影響力」を発揮して「日本ロック史上の最重要人物」にのぼりつめた桑田佳祐だが、『栄光の男』の主人公は、長嶋茂雄のようになれないまま、最後までショボクレている。
――♪「永遠に不滅」と彼は叫んだけど 信じたモノはみんなメッキが剥がれてく
――♪生まれ変わってみても 栄光の男にゃなれない
無論、「彼」も「栄光の男」も長嶋茂雄のことだろう。そして、あげくの果てにセコいセクハラをするという(詳しくは歌詞を)、とにかくショボクレた男が主人公で、つまり「栄光の男」というタイトルは強烈な反語となる。