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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
桑田佳祐は「日本ロック界の長嶋茂雄」である… 名曲『栄光の男』から推察する、ミスターへの応援メッセージとは
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byGetty Images
posted2022/01/29 17:02
日本ミュージックシーンのレジェンド、桑田佳祐。Number997号の表紙を飾ったことも
ロックスターとしてのぼりつめても、桑田佳祐の中で立ち消えることなく、むしろ歳を重ねるごとに強くなり、作品にも投影される「普通人感覚」。この「普通人感覚」こそが、桑田をロックスターとして輝かせ続ける武器になっていると思うのだが。
そんな、いかにも桑田佳祐らしい「普通人感覚」からの視点で歌われた、「栄光の男にゃなれない」「普通人」への応援歌。それが『栄光の男』だと、私は勝手に思っている。
『葡萄白書』に記されていた一文
さて、ここで注目したいのは、先の『葡萄白書』における、桑田佳祐が述べるこの一文である。
《歌詞は、長嶋茂雄さんと松井秀喜さんが並んだ国民栄誉賞の授賞セレモニーをテレビの中継で観たことがきっかけとなった。》
2013年5月5日、東京ドームで行われた、長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞セレモニー。状況を正確に記すと、長嶋と松井という受賞者2人と、時の首相・安倍晋三によるセレモニー。
私は当時、この大々的なセレモニーを見ていて、少々違和感を覚えた。2人の受賞者よりもチームやメディア、政治の事情が優先された感じがしたからだ(事実、識者からも同様の指摘が多かった)。
そんなセレモニーに、脳梗塞という大病を経た不自由な身体で参加しながら、満面の笑顔を見せた長嶋茂雄を見て、桑田佳祐は一体、何を感じたのだろう。
ここからは仮説だが、桑田佳祐も、もしかしたら私と似たような違和感にかられたのではないか。メッセージソングとして賛否両論を呼んだ『ピースとハイライト』発表直前(3カ月前)なのだから、この仮説もあながち間違っていないと思う(『栄光の男』はシングル『ピースとハイライト』のカップリング)。
様々な意図が交錯したセレモニーにおける長嶋茂雄を見て、「せめて長嶋さんには、自らが主体的に輝き続ける”栄光の男”でいてほしい」という桑田佳祐の思いを込めた、一種の応援ソングではなかったかと、『栄光の男』について憶測するのである。
「栄光の男」本人をも応援するメッセージ
私は『栄光の男』を、「ロック界の長嶋茂雄」である桑田佳祐が、長嶋ファンの「普通人」に戻りながら、「栄光の男」になれない「普通人」だけでなく、その「栄光の男」本人をも応援するメッセージを込めた作品だと、勝手に憶測して聴く。
もう、そんな作品を1曲でも生み出せただけでも、桑田佳祐が「ロック野球殿堂」入りするのに十分な理由になると思う。殿堂入り、あらためておめでとうございます。
――と、勝手に「ロック野球殿堂」を立ち上げて、勝手に曲の意味を憶測して、勝手に表彰してしまった。さすがに勝手すぎないか? いやいや、これでいいのだ。思い出してほしい。サザンオールスターズのデビュー曲のタイトルを――。
<『野球』愛が凄まじい、くるりの歌詞編に続く>