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野球クロスロードBACK NUMBER
白血病公表、SNS開設…寡黙だった攝津正(元ソフトバンク)が情報発信を続ける理由「『言うべきことじゃないよね』って考えもあった。でも…」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byShigeki Yamamoto
posted2022/01/04 11:05
昨年1月に「慢性骨髄性白血病」を患っていることを発表した元ソフトバンク攝津正。現在は「グローブ再生工房Re-Birth」のアンバサダーも務める
景色が灰色に映るような試練に直面したからではない。雄弁ではなく寡黙。現役時代も攝津とはそういう選手だった。
圧巻の投球で12年沢村賞を獲得
右腕をコンパクトに振る、テイクバックの小さいピッチングフォーム。ウイニングショットであるシンカーをはじめ、多彩なボールをコースに決める精度の高いコントロール。攝津の高度な技術は、試合を見ていれば誰だって理解できた。それくらい現役時代、特に沢村賞となった2012年あたりまでの攝津のピッチングは圧巻だった。
ただ、いかにしてそのパフォーマンスを実現させていたか――過程が詳細に語られることは、どちらかと言えば少なかった。
比較的、公にしてきたフィジカルや技術的なトレーニングではない部分。攝津で言えば道具がそうで、人並み以上に神経を使っていた。グローブは中継ぎから先発に転向する際、使用されることが多い牛革や鹿革だけでなく、半分の割合で軽量のメッシュ素材を採用していた。攝津の説明によると理由はシンプルだ。
「単純にずっと重いものを持っていたら疲れるじゃないですか。中継ぎでは感じませんでしたけど、先発になって『重いな』って感じるようになって。長いイニングを投げていくと、どうしても左手の使い方にズレが出てくるし、そうなるとコントロールも定まらなくなるんで。でも、軽すぎても操りづらいんで、そのあたりは結構、気にしてましたね」
スパイクにもこだわり、左右で歯の本数を変えていた。マウンドのプレートに据える右足は、通常の6本歯を履いていたが、踏み出す左足は本数を増やしていたのだという。攝津いわく「右足は歯が多いとマウンドの土に噛み合わず、左足は6本だと踏み出した際にズレる」とのこと。たった数センチ四方の1本の歯、グローブにしても数十グラムの重さが、ピッチングメカニズムの弊害になっていたというのだから、その繊細さが窺える。
このような持論や歩みをそれほど語らなかったのは、実績と無関係ではなかった。
現役時代「正直、心が折れそうな時もありました」
プロ1年目から中継ぎ、先発とフル稼働した攝津は、チームのスター選手だった。そうなると、本人が望まずとも衆目を集める。結果が良ければ喝采、悪ければ非難の声も余計に目立つ。そういった周囲の目を、攝津は意識的に遮断したというのだ。