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「私の原点はおじいちゃん」初の1万mで日本歴代2位の衝撃…拓大の18歳不破聖衣来とは何者なのか?
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byKasane Nogawa
posted2021/12/29 17:04
「陸上界のフワちゃん」とも呼ばれるが、その実力、潜在能力にそんなニックネームはやや不釣り合いか
これは新谷仁美に次ぐ日本歴代2位のタイムで、渋井陽子や福士加代子という名ランナー、東京五輪のこの種目で7位に入賞した廣中璃梨佳を上回るもの。さらに来夏の世界陸上の参加標準記録を突破するとともに、20歳以下としては世界歴代5位に位置する衝撃の記録に、京都・西京極のスタジアムは騒然となった。
内容も、前半の5000mが15分31秒、後半が15分14秒と、ペースメーカー不在のレースで終始先頭を走り、後半大幅にペースを上げるという「記録を狙うレース」としては珍しい展開。年上の実業団の選手を大きなストライドで次々と周回遅れにしていく姿は、駅伝時以上のインパクトを残した。
レース後、本人は囲み取材でこう語った。
「最初は(世界陸上標準を)狙ってなかったんですけど、最初の1000mで感覚的に体が動いたので、これは狙えるんじゃないかと途中で切り替えていきました。30分台が出ると思わなかったので、そこはすごい嬉しかったのとビックリしました。練習でも10000mはレースペースでやってなかったので、そこまで自信はなくて……。これからはタイムだけでなく、勝負に勝ち切る強さも身に着けていきたいです」
「いまは“焦らず、ゆっくり”という練習方針です」
指導をする拓殖大学女子陸上競技部の五十嵐監督は、不破の潜在能力と現時点での力についてこう評する。
「中学生の頃にその走りを見て、素質にほれ込みましたが、自分でレースを作って、さらに勝ち切る力を持っているのが一番すごい。だからペースメーカーがいなくても、レースで勝って、タイムもついてくるんです。本当にトラックで世界の舞台で戦えると思っています。
いまは僕も含めて“焦らず、ゆっくり”という練習方針です。今は彼女の100%、120%の能力を引き出す必要はなくて、70%を継続させたい。全体的な練習量も他の部員に比べて抑えていますし、ポイント練習の回数も抑えてる。高校時代は故障が多く、大学入学直後も貧血に悩まされました。だからこそ、食事などで身体づくりをして、故障をさせずに、継続的に練習をしていくことが大切なんです」
五十嵐監督は、高橋尚子さんらを育てた小出義雄氏のもとでコーチを務めたが、不破の指導にはその“小出哲学”が生きている。
「小出監督はよく『その子、その子にあった練習を考えろ』ということを言っていました。有森(裕子)さん、高橋さんはそれで成功をしていった。だから不破が高校時代までつけていた7冊の練習日誌をすべて借りて、それを読み込みました。そこから彼女の成功パターンやルーティーンなどが徐々に見えてきましたね」
他の学生に不満は?「あそこまで強いとないんです」
治療のために信頼する福岡のトレーナーのところまで連れて行くこともあるというから、オーダーメードの指導の方針は徹底している。だが、大学のチームにはもちろん他の選手もいる。監督が不破を特別扱いすることに不満は出てこないのだろうか。