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「私の原点はおじいちゃん」初の1万mで日本歴代2位の衝撃…拓大の18歳不破聖衣来とは何者なのか?
posted2021/12/29 17:04
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Kasane Nogawa
「あの、もう練習に行ってもいいですか?」
不破聖衣来は、五十嵐利治監督にそう尋ねて了承をもらうと、僕らに「ありがとうございました」と笑顔でペコリとお辞儀をして、部室のほうへ走っていった。
その足取りは軽く、あれこれと質問をされ、写真を撮られる取材が終わった安堵感と解放感、そしてそれ以上に“走る時間”に戻れることが嬉しそうだった。
五十嵐監督に「走るのが、好きなんですね」と聞くと、「ほんとそうですね。その気持ちがあるから誰よりも努力して、走ることにストイックにもなれるのかもしれません」という言葉が返ってきた。
決して取材対応が悪いわけではない。こちらの眼を見て、会話をすることを楽しんでいるようでもあった。例えば、群馬から東京へやってきて1年目で、大学生活の苦労について尋ねたときには、こんなやりとりがあった。
「安いジャンボパックみたいになったお肉を一気に買って…」
「陸上部の寮で、朝と夜のご飯は出るんですけど、お昼は自炊になったので、その料理が大変でした。最初の頃はレンジでチンするだけだったんですけど、最近は食材とか買ったりして、簡単な料理を作るようになりました」
――例えば何を作ってるんですか?
「何だろう。ほんといろいろなんですけど、安いジャンボパックみたいになったお肉を一気に買って、それを小分けにして、下味付けて冷凍しておいちゃって、みたいな。それがすごい楽で。食べる時に焼くだけの状態にしておくんです(笑)」
――親元を離れて1年目なのに、すごいですね!
「袋の中にお肉を入れて、調味料を入れて、揉んで、冷凍しておくだけなんで、それが一番楽でおいしいんです。まだ先輩たちに比べると、あんまり量を食べられないので、しっかり食べられるようにして、10kmとか長い距離を走れる体をつくっていきたいなって」
お肉を小分けにして冷凍保存している拓殖大学の細身のルーキー。だが、今季はトラックシーズンから全日本インカレ5000mで優勝するなど圧倒的な素質を見せてきた。さらに駅伝シーズンになった秋以降、文字通り才能が爆発しており、陸上ファンや関係者の度肝を抜いている。
初の1万mで「世界歴代5位」に会場が騒然
まずは、10月31日の全日本大学女子駅伝5区で、従来の記録を1分14秒も大幅に更新する爆走。ケニア人留学生かと思うほどのスピードの違いを見せつけ、解説の高橋尚子さんが「新しいスターが誕生しました」とコメントするほどのインパクトを残した。
そしてさらなる衝撃は12月11日の関西実業団ディスタンストライアル10000m。トラックでは初の10000mだったにもかかわらず、30分45秒21のタイムを叩き出したのだ。