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ギル・ホッジスと渋い野球人たち。殿堂入りした顔ぶれに見る「見逃し委員会」の文化成熟度

posted2021/12/18 06:00

 
ギル・ホッジスと渋い野球人たち。殿堂入りした顔ぶれに見る「見逃し委員会」の文化成熟度<Number Web> photograph by Getty Images

ブルックリン・ドジャース時代のギル・ホッジス。現役時代はメッツでもプレーし、監督としてはセネタース、メッツで指揮を執り69年にはメッツでワールドシリーズを制覇した

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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 12月初め、〈オーヴァーサイト・コミッティ(見逃し委員会)〉が、新たに殿堂入りする野球人6名を選出した。え、殿堂入り選手の発表は年頭じゃないのか、と思われる方は多いだろうが、それはBBWAA(全米野球記者協会)の投票によるもので、年末は見逃し委員会が選出する。2010年までは〈ヴェテランズ・コミッティ〉と呼ばれてきたため、こちらの名称に馴染んでいる人のほうが多いかもしれない。私も後者の呼び名に親しんできた。

 委員会が選んだのは、ギル・ホッジス、ジム・カット、ミニー・ミノソ、バック・オニール、トニー・オリヴァ、バド・ファウラーといった渋い顔ぶれである。見ればわかるとおり、昔の野球人ばかりだが、野球史の断面図という趣も感じられる。

 選考対象となる時期は、毎年変わる。2018年は現代野球(1970~1987年)が、19年は今日の野球(1988年~現在)が対象だったが(20年はコロナ禍のため中止)、今年は初期の野球(1871~1949年)と黄金時代の野球(1950~1969年)を合わせた時期が対象になった。

成績だけでない評価基準

 その結果、黒人初のプロ選手といわれるファウラーや、「ニグロ・リーグの賢人」と呼ばれたオニールが選ばれた。オニールは、選手としての通算打率こそ2割5分台だったが、監督やスカウトとして球界に長年貢献した功績が評価された。ケン・バーンズの18時間ドキュメンタリー『ベースボール』を見た方なら、炉辺の古老を思わせるオニールの語りを記憶にとどめているのではないか。

 ミノソとオリヴァはキューバ出身で、ともに好打者だった。前者は「ミスター・ホワイトソックス」と呼ばれ、後者はスウィングの美しさで知られた。白人はホッジスとカットの2名で、両者に共通するのは、選手としても、広義の野球人としても大きな足跡を残したことだ。

 カット(MLB通算283勝)は守備の巧い投手で、ゴールドグラヴを16年連続で受賞している。25年間投げたあとは2年間コーチを務め、現場を退いてからは、36年間の長きにわたってブロードキャスターとして活躍した。83歳のいまも健在で、1950年代から2020年代まで球界に関わってきた長い歩みに驚かされる。

「ハイブリッド」という観点からすると、ギル・ホッジスは、6人のなかでも傑出しているのではないか。ドジャースの一塁手として打線の中軸を担い、1955年と59年のワールドシリーズ制覇に貢献しただけではない。69年にはミラクル・メッツの監督としてワールドシリーズ優勝をなしとげ、世界を仰天させているのだ。

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