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槙野智章のサプライズに感謝のイエローカード…主審・村上さんってどんな人? 帝京では礒貝とプレー、印象深いのは「本田圭佑の質問」 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byJ.LEAGUE

posted2021/12/05 11:05

槙野智章のサプライズに感謝のイエローカード…主審・村上さんってどんな人? 帝京では礒貝とプレー、印象深いのは「本田圭佑の質問」<Number Web> photograph by J.LEAGUE

今シーズン限りで国内トップリーグを担当する審判員を勇退する村上伸次。プロフェッショナルレフェリーとして、多くの試合を裁いてきた

「プロですから、レフェリング1本で食べていくことになりましたし、周りの見る目が一気に変わりました。ジャッジに対する風当たりというか、批判も含めて周りの声は一気に厳しくなりました。でも、逆に厳しさを含めていろんな経験や思考を積み重ねることができました」

 プロとして経験を重ねる中で、レフェリーとしての立ち振る舞い、技術力の向上と共に、コミュニケーション力や表現力の必要性を感じることが多かった。

「2年ほど前に名古屋大学の言語学の教授と論文を共同作成したのですが、その中で試合中の選手の発言でレフェリーがどう思うか、またその逆についてもまとめてみたんです。そこで感じたのは『人の名前を言えない選手が多い』と言うことなんです」

 例えば試合中に、選手から「おい!」と呼ばれるのと「レフェリー!」または「村上さん!」と呼ばれるのとでは、それぞれ異なる印象を受けるだろう。名前で呼ばれたらすぐに反応できるだろうし、「おい!」と呼ばれたらカチンと来るかもしれない。

 もちろんレフェリーである以上、感情に左右されてはいけないが、そのために村上氏は事前に選手の心理を分析することが重要だと語る。

印象的だった本田圭佑の振る舞い

「自分のプレーに苛立っている選手、チーム戦術がうまくいっていない状態の選手、時間が押し迫っていて負けている状態の選手……要は自分にとってネガティブな要素がある時に『おい!』という荒い言葉が出てきます。それを念頭に置きながらレフェリングをすると、試合中に『おい!』と呼ばれてもなんとも思わなくなるんです。選手の心理や状況を理解していると、その苛立ちに引っ張られることなく対応できるようになります。

 そんな中でも私のことを名前で呼んできたり、しっかりと会話をしようとする選手もいるんです。のちに海外へ渡った選手たちやそのチームのキャプテン、主軸を張るような選手は、冷静な言動が目立つ選手が多かった。

 そういう選手はやっぱりプレーの精度が高いし、意見に対してこちらもしっかりと答えようと思います。円滑なコミュニケーションが取れるんです。中でも印象に残っているのは本田圭佑選手ですね。10代の頃から非常に落ち着いていて、試合中も『村上さん』と話しかけてくる。やっぱり名前を呼ばれると『何?』と話に耳を傾けてしまいますよね。しかも、本田選手は冷静な口調で『これはどうなんですか?』とかちゃんと具体的に質問してくるんです。それには驚きました」

 どんな状況であれ、1人の人間として審判とコミュニケーションを取る。本田のようなA代表や海外、Jリーグのクラブで主軸としてプレーし続けられる選手たちは、うまくいかない時にこそ、自分を冷静に保てているのだろう。だからこそ、最後まで質の高いプレーができる。村上氏はこう続けた。

「それはレフェリーも一緒です。選手に対して取り繕ったり、『うまく丸め込んでやろう』と思ってしまうレフェリーはトップにはいけません。毅然とした態度を持ちつつ、決して意固地になったり、上からになるのではなく、きちんと選手とコミュニケーションができるか。レフェリーも人間性だと思います」

【次ページ】 ミスを引きずらない準備

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