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「本当は…心が折れていたかも」TJ手術を経て1092日ぶりの一軍登板を果たしたDeNA田中健二朗が、いま伝えたい思いとは?
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2021/11/29 11:03
32歳を目前にした苦労人左腕の1092日ぶりの一軍登板に、ハマスタは割れんばかりの拍手に包まれた
「たわいもない話ができるのは、ありがたいですよね。苦しかったりメンタルが落ちているとき、普通に話せる存在がいるっていうのはすごく大きな力になりましたし、彼らがいてくれて良かったなって」
あと田中がTJ手術を受けた半年後に同じ手術をした東克樹の存在も大きかった。
「東といろいろ情報を共有できたのは良かったし、ひとりじゃいろいろ厳しかったと思います。あと僕のほうがリハビリが進んでいたわけですけど、考えたのは、自分が上手く行かなかったら東は不安に駆られるだろうなってことです。僕が逆の立場だったらそう思うだろうし、だから絶対にそうならないようにしようって。本当それだけですよ」
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苦しかった日々。明日への光を感じられず心折られながらも耐え忍び、それでも這いながら前に進んできた。まるで藪の中をかき分けるように歩いてきた田中の後ろには、いつしかきれいな道ができていた。
後に続く選手に伝えたい経験
手術をしたばかりの2年前、田中は次のようなことを話してくれた。
「今後もし同じような手術をする選手が現れたとき、前例ではないですけど僕がどんな経緯で手術をし、リハビリをし、いかに復帰したかというのを伝える役目も担っていると思っているんです。僕はこれまで肘を痛めたことがないし、リスクは誰にでもあるんだって。チームにとっても、実際に手術のことを理解している人間がいるのといないのとではかなり違うと思いますからね」
今年の6月にはチームメイトの平良拳太郎がTJ手術をしているが、田中らのアドバイスで早めの手術に踏み切れたという。現在は田中たちがトレーナーと一緒に構築してきた復帰プログラムをこなしている。
田中に「あのとき語っていたことが現実になりましたね」と言うと、少しだけ満足そうな顔を見せた。
「今後、TJ手術が増えるかどうかわからないですけど、もしそうなったときにアドバイスできる人やプログラムがあるのは本当に大切なことだと思います。僕の存在なんてちっちゃいものですが、少しは貢献できたようで良かったです」
ケガ人や故障者を出さないことが球団には求められるが、それでも不可避なことはある。いかに不安なく速やかに治療に向かうことができるか。田中のTJ手術後の経験や過程は、確実にチームの財産となっている。