ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
「本当は…心が折れていたかも」TJ手術を経て1092日ぶりの一軍登板を果たしたDeNA田中健二朗が、いま伝えたい思いとは?
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2021/11/29 11:03
32歳を目前にした苦労人左腕の1092日ぶりの一軍登板に、ハマスタは割れんばかりの拍手に包まれた
「当然、新しいフォームとの兼ね合いもあるのですが、ブルペンで投げていても、以前のいいときと比べるとギャップが大きいんです。軌道も違えば、抜け方も違う。これじゃ厳しいかなって。そこで変化球はスライダーとフォークの感覚が良かったので、そっちにシフトしたという感じですね」
変化したフォームに強い真っすぐ、そしてフォークとスライダー。「まるで違うピッチャーになりましたね」と言うと田中は笑った。
「いやいや。まあでも復帰前に『新しい田中健二朗を見せたい』と言っていたので、そういう姿を見せることができたのは良かったと思います。ただ来季、143試合と考えたとき、同じバッターと何度も対戦するわけですし、今季のような真っすぐで押せ押せのピッチングはできない。そういったときに頼れる変化球……今まではそれがカーブだったんですけど、ない今、新しい変化球も含め、見つけないといけないなって」
来季は、さらにバージョンアップした田中をきっと見ることができるだろう。
チームメイトに力づけられた不安な日々
29歳で決断したTJ手術。もっと早くやっておけば良かった、と田中は口癖のように言っていたが、さまざまな経験をしたことで本来いるべき場所に戻ることができた。とくに昨年5月はコロナ禍でピッチングのメニューは進むもののケアが追い付かず不安な日々を過ごしたこともあった。そういった厳しかった時期、自分を支えていたのは何だったのだろうか?
「うーん、難しいですねえ……」
沈思黙考。すぐに言葉が出るものと思ったが、ここは当たり障りのないことを言わない田中らしい。
「本当のことを言えば、何度も何度も心が折れかけて……いや、折れていたのかもしれない。だからつらいときは、休み休みと言いますか、違うことをやってみたり、ダラけてみたり。もちろん復帰したいという気持ちはありましたけど、本当に治るのかなと思ってやっていましたからね」
これがTJ手術を受けた当事者のリアルなのだろう。人間だから後ろ向きになる日だって当然ある。不安で寝つきの悪い夜もある。
ただ、そんなしんどい時期、力になってくれたのが三上朋也や武藤祐太、平田真吾、伊藤光、中井大介といった同学年の気の置けない面々だった。