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「本当は…心が折れていたかも」TJ手術を経て1092日ぶりの一軍登板を果たしたDeNA田中健二朗が、いま伝えたい思いとは?
posted2021/11/29 11:03
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
KYODO
「新しい相棒はどんな感じですか?」
横浜DeNAベイスターズの秋季トレーニングが行われていたある日、練習後に田中健二朗にそう尋ねると「ははは」と笑った。
相棒とは、2019年8月にトミー・ジョン(TJ)手術を行った左肘靭帯のことだ。
「まあ、だいぶ馴染んできて元気に頑張ってますよ。え、来季ですか? もちろん、やってくれると思います!」
田中はそう語ると満足そうな表情で左肘をちらっと見た。手術をして2年だが、肘に違和感が出て一軍のマウンドに帰ってくるまで約3年の時間を要したことを鑑みれば、本当に長きにわたる戦いだった。
「自分の仕事は点差をキープすること。相手が本気で点を取りにくるところに自分はベストなボールで勝負する。緊張感やプレッシャーはすごいけど、そういったものを求めていたからこそ頑張ってこられたんです。本当、実現することができて良かった」
1092日ぶりの一軍マウンド
復帰登板は9月12日の阪神戦。8-1でDeNAリードの試合、9回表2死の場面で田中の名前がコールされ横浜スタジアムに響き渡った。コロナ禍ゆえ観客の声出しはタブーであったが、この時ばかりは歓声が漏れ、拍手が渦を巻くように湧き上がった。
田中を乗せたリリーフカーが、ブルペンのあるライト後方からグラウンドへ滑り出す。久々の田中の登場に涙するファンも多くいた。
「景色を見る余裕がないほど緊張していましたね。ただもうお客さんの拍手がすごくて、僕も泣きそうになりましたよ。いろんなことが頭に浮かんで……何て表現したらいいのかわからない状態でマウンドに上がりました」
田中は最初の打者である原口文仁をフォアボールで歩かせるも、つづく小野寺暖をピッチャーゴロに切って取り試合を締める。1092日ぶりとなった一軍でのピッチング。ベンチへ戻ると、三浦大輔監督から「おかえり」と声をかけられた。田中は焦点が定まらない様子でぺこりと頭を下げた。