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「浅田真央がトリノ五輪に出られない」から16年…女子フィギュア界で“シニア参加年齢引き上げ論争”が過熱する理由
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/11/21 11:01
15歳でGPファイナル優勝を果たした15歳の浅田真央。この年にトリノ五輪を控えていたが規定により出場は叶わなかった
トゥルソワは今シーズンのフリーで4回転ジャンプを4種類5本組み入れた構成を披露したが、1種類習得することすら、並大抵のことではない。結果、上位は十代半ば前後の選手が占める事態が生じ、成人のスケーターが上位に入るのが以前より難しくなっている。
またそこには新たな懸念も生じている。技術の向上に加え表現面の成熟もフィギュアスケートの魅力なのに、技術で突出した選手ばかりが活躍する競技になるのではないか――。
問題3)「競技人生のサイクル」のスピード化
「一度限りのチャンピオンは好きではない」というアルトゥニアンの言葉にもうかがえるように、競技人生のサイクルが早まることも懸念の1つだ。
15歳で平昌五輪の金メダルを獲得したザギトワは、現在は競技の第一線にはいないし、北京五輪代表になる可能性もない。身長が伸びたことでジャンプの跳び方の修正を余儀なくされたが、多くの選手がそうであるように、その作業に苦しむ間に下の世代からジャンプで上回る選手たちが現れ、成績で越えられていった。本人も様々な葛藤があったことを、ときに触れていた。
問題4)過度な体重管理による「健康被害」
より大きな懸念は、選手の健康に対するものかもしれない。近年、ロシアで台頭した選手は摂食障害に苦しむ選手も目についた。2014年ソチ五輪でロシアの団体戦金メダルに貢献したユリア・リプニツカヤはそれがために19歳で引退し、ザギトワも満足に食事をとらず、それこそ平昌五輪のときは「水も満足に飲まなかった」と明かしている。
だからこそ、過度な体重管理を行なってジャンプを身に着けている、身に着けさせているのではないか、という批判も起きている。また、怪我のリスクが増していることを心配する声もある。
プルシェンコ「競技人生が短い競技であるべきではない」
男子のジャンプが年々ハイレベルになっているように、女子がトリプルアクセル、4回転ジャンプへと向上を志すのも、スポーツとして自然な流れだ。世代交代も、スポーツとして必然的に起きる。ただ、技術と(技術にも裏打ちされた)表現という魅力を併せ持つフィギュアスケートの行く末への不安、選手の健康問題などいくつかの点から、シニアの年齢引き上げが議論されているのも事実だ。
どのように議論が進み、来年、どのような結論になるのか。プルシェンコはロシアのメディアの取材に、「競技人生が短い競技であるべきではない」こと、「ジャンプと表現のバランスの重要性」を指摘している。