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「獲物を狙うような表情で…」宇野昌磨が“スケートを楽しめない時期”を超え、成長を誓った“本当の理由”〈NHK杯優勝→GPファイナルへ〉
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAasami Enomoto
posted2021/11/16 11:02
NHK杯にて優勝を果たした宇野昌磨のフリーでの表情
フリーでは「獲物を狙うよう」だった宇野の表情
フリー「ボレロ」は冒頭の4ループ、そして4サルコウがきれいに入った。ここ何年か見たことのない、まるで獲物を狙うような表情の宇野だった。
大技がきまっても、ニコリともしない。予定している4回転はあと3つ。まだまだ気を抜けないのだろう。
4+2トウループ、3アクセルと、次々ジャンプがきまっていった。唯一のミスらしいミスは、後半に予定していた4フリップが2回転になったこと。だがその後4トウループ、そして3アクセル+1オイラー+3フリップを成功させて、最後のステップシークエンスもスピードを落とさずに体が良く動いていていた。
最後のポーズをとった直後、「まあいいかな」とでも言うように首をちょっと傾げた宇野。観客に応える表情も、SPの時より和らいでいた。187.57、総合290.15で自己ベストを更新し、3年ぶりの優勝が決まると、ちょっとだけ片手で拳を握って見せた。
“過去最高”の難易度で挑む理由はオリンピックではなく…
ループ、フリップ、サルコウとトウループの合計4種類の4回転を計5回組み込んだ今季のフリーは、宇野にとって過去最高の難易度だ。特に4ループを戻してきたのは、2018年以来のこと。
「ループというジャンプは、もっと安定させられるような気がするんですね。ぼくが練習で跳んでるフリップくらいの確率でループができるようになれば。今は一つ目のジャンプ、体が万全な時じゃないと跳べないジャンプで、ループ(の位置)を動かせないんですけど、これが後半に入れられるようなジャンプになれば、もっと挑戦的な構成に挑めるんじゃないかと思う」
こうして次々とハードルを上げていく理由は、必ずしも北京オリンピックを意識して、という訳ではないのだと言う。
「今季がオリンピックじゃなくても、今のぼくの心境は変わらなかった。佐藤駿君、鍵山優真君のように、日本の中でも強い若い選手が出てきたので自分も負けないように、という気持ちがあります」
シニアに上がってからずっと羽生結弦の背中を追ってきた。だがここに来て優秀な後輩たちに追い上げられ、負けたくないという気持ちが湧いてきたのだと言う。