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部活的な「中学・高校3年ずつで育成」は世界的に見て非効率? ブラジル在住記者の《日本サッカー停滞打破》大胆提言
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byJamie McDonald-FIFA/Getty Images
posted2021/11/14 17:03
2009年のU-17W杯でネイマール擁するブラジルと対戦した日本代表。育成は堅苦しくなりすぎないようにしつつ、明確な整備が必要なのだろう
ただし多くの学校のチームが目指すのは地方大会や全国大会で好成績を収めて校名を高めることであり、必ずしもプロ選手を養成することではない。
いじめ、パワハラが生まれかねない構造
「チームの勝利よりプロ選手を育てることを優先する」と公言する興国高校(大阪)の内野智章監督は、日本の高校の指導者としては例外だろう。しかし、南米のプロクラブのアカデミーの指導者は誰もがそう考えている。
強豪校で部員数が多い場合、下級生はボール拾いなどの雑用をさせられたり、監督、コーチの指導が受けられず、単調で効果の薄い練習を強いられることがある。
また、構造的に、学校のチームでは監督が全権を掌握することが比較的容易だ。学校側のチェックが十分でない場合、指導者によるパワハラ、しごき、非科学的で時代遅れの練習、上級生によるいじめなどが起きるリスクが潜んでいる。
さらに、選手が故障をしていても指導者が無理強いして練習をさせたり試合に出し、そのせいで故障がさらに悪化することがある。故障が完治せず選手が退部を余儀なくされ、なおかつ後遺症に苦しむ例も報告されている。
このようなことは、プロクラブのアカデミーでは発生しにくい。
たとえば、ブラジルの場合はまず起こらないという。その理由を、あるクラブ関係者は以下のように説明する。
「選手への身体的、心理的な暴力や威嚇は犯罪であり、選手もその父兄も黙っていない。場合によっては、警察に通報したり告訴する」
「プロの指導者が生産性の低い練習をしていたら、すぐに職を失う」
「選手の故障に関しては、ドクターと理学療法士が専門家の立場から判断する。彼らが了承しない限り、監督・コーチといえども選手にプレーを命じることはできない」
世界の潮流はクラブのアカデミーだからこそ
強調したいのは、世界のトップ選手のほぼ全員が、プロクラブのアカデミー育ちという点である。世界的に見れば、すでに「選手を育成するための最良の機関はクラブのアカデミー」という結論が出ているのではないか。日本でも、選手育成はプロクラブのアカデミーが中核となり、街クラブや学校のチームがそれを補う、という構図が考えられる。
しかし日本では学校のチームのみならず、Jクラブのアカデミーもこれまで世界のトップ選手をほとんど育成できていない。