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シュワンツ、ロッシ、マルケス…王者の必須テク“ハードブレーキ”を武器に、クアルタラロが狙うフランス人初の最高峰クラス王座 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2021/09/02 17:01

シュワンツ、ロッシ、マルケス…王者の必須テク“ハードブレーキ”を武器に、クアルタラロが狙うフランス人初の最高峰クラス王座<Number Web> photograph by Satoshi Endo

2015年にMoto3にフル参戦して以来、数々の最年少記録を塗り替え、MotoGP3年目の今季、王座を狙う位置につけるクアルタラロ

 つまり、いまのMotoGPは、見方によってはブレーキング勝負の状況と言える。それを招いた要因は、シーズン中のエンジン開発禁止、厳しい燃料規制、エンジンコントロールユニット(ECU)の共通化、タイヤの1社供給などで、マシンの性能差がなくなってきたことだ。

 コーナーリングや加速時は、ECUや空力デバイスでマシンコントロールが可能になり、ライダースキルの差が出にくい。しかし、ブレーキに関しては人間の能力を上回るシステムがない。以前からアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)などにトライしているが、2輪のレースでは使いものにならないレベルであり、この分野だけは、ライダーの感覚がコンピューターを完全に上回っていて、ライダー独自のテクニックが走りに影響を及ぼしている。

 かくして現代のレースではより重要となったハードなブレーキングをアドバンテージにして、クアルタラロは首位を独走している。しかし、第4戦スペインGPでは、今季3勝目を目前にしながら右腕の「腕上がり」の症状で13位に後退した。4ストロークエンジンのMotoGP時代となってハードブレーキングが必須となった結果、ライダーに「腕上がり」の症状が顕著に出るようになり、手術を受けるケースが増えた。クアルタラロもそのひとりで、ハードな日程の中、スペインGP終了後に右腕の筋膜にメスを入れる腕手術を行なった。

ケビン・シュワンツの伝説的ハードブレーキ

 ブレーキングは、いつの時代もレースに勝つために重要な要素になるが、過去の名選手たちにもハードブレーキングを武器にチャンピオンになった選手は多い。その中でもっとも有名なのは、スズキで通算25勝を挙げ、1993年にチャンピオンになったケビン・シュワンツである。

 2ストローク500cc時代、ストレートの速さを武器にするホンダ、ハンドリングのヤマハを相手に苦戦を強いられたスズキに乗るシュワンツは、ハードブレーキングを武器に戦いを挑んだ。その走りは僕のグランプリ取材生活の中でもイチバン強烈に印象に残るもので、バレンティーノ・ロッシが「シュワンツの走りはスペクタクルだった」と語る。そして何よりもシュワンツの凄さを知らしめるのは、当時、スズキの監督だった伊藤光夫さんへのこんな言葉だった。

【次ページ】 クアルタラロを待ち受ける重圧

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