ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
「僕は若い世代の指導が適している」野球エリート・仁志敏久が挑む、DeNAファーム再構築の方法論とは
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2021/08/02 11:01
嘉手納キャンプのブルペンで三浦大輔監督と話し込む、仁志敏久二軍監督(右)。背番号87は巨人時代の8と横浜時代の7を組み合わせたもの
まずファームとしては一軍で通用する選手の育成が主な目的となるわけだが、自身の経験を踏まえ選手たちに一番伝えていきたい指針とは何だろうか。仁志監督はしばし思案し、ゆっくりと口を開いた。
「たくさんありますけど、ひとつはプロ野球選手である時期というのは人生を振り返ったとき、非常に短いものだということです。それが現役中はわかりづらい。だから焦らせるわけではないのですが、限られた時間をいかにして有効に使えばいいのか、毎日の練習や試合への向き合い方などしっかりと考えなさい、とは伝えていますね」
たしかに早い選手なら3年程度で球界を去り、10年以上現役をつづけられる選手は決して多くはない。プロ野球選手はリミットがある中、なるべく早く結果を出さなければいけない。ならば成果を上げることのできる選手と、そうでない選手の違いはどこにあるのか。
「これもいろいろな要素はありますが、やはりその選手の“資質”によるところは大きい。それにプラス、性格やモノの考え方。目標は揺るぎなく、かつ高いものでないといけない。結果を出すことのできる選手は、多少寄り道があったとしても真っすぐ行こうとします。周りがなにを言っても気にしない。自分の進む道を見極め、着実に歩める選手が一流になっていくと思いますね」
ブレのない信念の持ち主が、必然的に望む場所へと誘われるということか。ただ、そういった選手ばかりではないのが現実である。仁志監督は若い選手の多いファームの状況を示しながら、次のようにつづけた。
「20歳前後の選手ですから、まだ子どもみたいなところがあるんです。そこは子どもだから仕方がないと考えることもあれば、ここは子どもであっても見逃してはいけないといったこともあります。そこはU-12の指導経験が生きていますね。高卒から20歳前後の選手たちに指導することや伝えることは、誤解を恐れずに言えば基本的にU-12の子たちとあまり変わらないんです」
親として、理解者として
シンプルかつ基本に立ち返った効果的な指導。だからこそ理解、納得できるように丁寧に伝え、指導していくことが肝心になる。
「時として“親”にならなければいけないし、時にはよき理解者として“友だち”や“仲間”になる必要もあります。ただ実際、若い選手に対しては“親”である割合のほうが多いですね。こういう時代ではありますが、やはり厳しく言うところは厳しく言わなければいけない。フランクに接するのが今風なんだろうなとは理解していますが、やっぱりプロの世界ですからあまり優しすぎてもよくないと思うんです。まあ昔のような頭ごなしの精神論は必要ないけど、より進化した精神論みたいなものは今後絶対に必要になってくると思いますね」
なるほど、手垢まみれの精神論が、仁志監督によってどのようにブラッシュアップされるのか興味深い。