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「本当にサッカーが好きなんだと」異例の監督就任から半年…34歳元Jリーガー林陵平が明かす“東大サッカー部の今”
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byYuki Suenaga
posted2021/07/30 11:00
元リーガーの林陵平氏が東京大学ア式蹴球部に就任した。オファーは“東大生からの直電”だった
「もちろん分析することってすごく大事なんですけど、『戦術、戦術!』って頭でっかちになってほしくはない。サッカーの本質である1対1で負けない、相手に走り勝つ、情熱を持ってプレーするとか、そういう部分もすごく大事。監督として、学生とも話しながらそのバランスもしっかり取りたいなって」
監督はFW「僕にはあまり聞きにこないですね…」
就任から約半年が経った今、東大ア式蹴球部は2分7敗でリーグ最下位と苦しい戦いが続けている(取材当時)。林もどうにかこの状況を打破したいと考えている。
「ゲーム内容も良くなってボールを持てる展開が増えてきていますが、ゴールが遠いですね。後ろでボールを動かしていても点は入らないので、勝つためには相手陣内でボールを動かして、もっとゴールに向かっていくこととか、たくさんチャンスを作り出すことが必要です」
課題は得点力。となれば、最高の教材が近くにいる。昨年までストライカーとしてプロの第一線を戦ってきた林に、選手たちが教えを求めることもあるのではないだろうか。聞いてみると、ここでも内向的な学生たちの日常が見えてきた。
「恥ずかしいのか、遠慮しているのか、僕にはあまり聞きにこないですね。聞きにくればいいのにって思うんですけど」
試合でなかなか点が取れない時は、ストライカーとしての血が騒ぎ、「自分が出たい」と思う時もある。そこをグッと我慢して、戦況を見守る。そして、負けると「選手の時よりも疲労感が出る」という。
「選手を勝たせてあげられないのは監督の責任なので申し訳ないと思うし、勝てないモヤモヤ感はすごいです。上田康太(栃木)、喜山康平(岡山)とかと話をしています。指導するのは改めて大変だって、そんな話をしています(笑)」
監督1年目で学生たちに気づかされることも多い。試行錯誤の毎日だが、監督として影響を受けている人物を聞くと、ロティーナ(現清水)監督とネルシーニョ(現柏)監督を上げてくれた。
「特にロティーナから戦術面について攻守はもちろん、練習のスタイルを含めたサッカー全般を学びました。ネルシーニョには、マネジメント面で選手一人ひとりの様子を見ることや勝利に対するこだわりを学びましたね」
就任当初は「身の回りのことができない選手も多かった」
厳しい戦いがつづくが、それでも最初の頃よりもチームとしてできることは増え、選手はフィジカル面で成長し、かなり戦えるチームになってきた。同時に選手としての意識も高くなってきた。