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12歳の“中学生レスラー”咲蘭が涙のデビュー戦で「喜怒哀楽が全部出ちゃう」 キッズレスラー“ならではの魅力”とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/07/10 11:00
ラム会長のキャメルクラッチに必死で耐える12歳の咲蘭
「相手によって闘い方が変わるというのはどんな選手との試合でも同じです。ハイスピード選手相手とパワーファイター相手では違う。ベテラン相手と新人相手では違う試合になる。でもそれは“新人との試合ではレベルを下げる”ということではないんです。それではお客さんが見てくれないですから。むしろ相手を引き上げる、相手のよさを引き出す試合が新人やキッズ相手には大事だと思います。キッズレスラーという存在に違和感もないですね。私がデビューした時点で、すでにいましたから」
実は咲蘭には、すでに選手としての“ミッション”もある。
「同い年の子も含めて、練習生、選手候補があと3人いるんです、今。その子たちに火をつけてほしい。咲蘭を見て“私もプロレスラーになりたい”って思ってほしいなって」
ファンが並走して成長を応援できるのが「キッズレスラー」の魅力
藤本の夢は、所属選手の出身地が47都道府県すべてを網羅すること。そして47都道府県で凱旋興行を開催したい。喜怒哀楽すべての感情をありのままに出し、ファンと共有できるのがプロレス。そんな素晴らしいジャンルをできるだけたくさんの女性に経験してほしい、そして始めるなら早いほうがいいと藤本は考えている。
「私がプロレスを知ったのは大学を卒業して、就職もしてから。プロレスを始めてみて“もっと早く出会いたかった”と思ったんです。だからくるみやつくし、咲蘭がうらやましいですよ」
くるみはキッズレスラー時代、男子選手との試合を組まれてやりたくないとぐずったことがある。泣くにしても笑うにしても子供は取り繕うことがない。だから見ていて面白い、感情移入できると藤本。もちろん最優先は学業で「夏休みの宿題が終わらなければ後楽園ホール大会には出さない」と条件をつけたこともある。そうしたやりとりも、子供のうちにしかできないことだ。
「本当にどうなるか分からないんですよ。咲蘭も体が小さくておとなしいのに、好きな選手は大きくて元気のある人。もしかしたら自分も体を大きくしたいのかもしれない。10年やっても22歳ですもんね。20年でもまだ今の私より歳下(笑)。どんな選手になるんだろう。もう楽しみしかないです」
片手で数えられるほどの技しか使えなかった選手が闘い方を覚え、勝利の味を知り、いつかチャンピオンベルトを巻く。レスラーそれぞれの成長と並走できるのもファンの楽しみだ。そしてキッズレスラーとは、ファンにとってより長く、より大きな成長を見ることができる存在なのだ。
本人にはそんな期待を意識する余裕はないだろう。今はそれでいい。得意なことも苦手なこともあって当然。ひたすら無我夢中になっている姿こそ、キッズレスラーの最高の“表現”だ。
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