濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
12歳の“中学生レスラー”咲蘭が涙のデビュー戦で「喜怒哀楽が全部出ちゃう」 キッズレスラー“ならではの魅力”とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/07/10 11:00
ラム会長のキャメルクラッチに必死で耐える12歳の咲蘭
しかしリングに上がり、観客の前で闘う経験を重ねるにつれて度胸がついた。相手の顔に張り手を見舞う場面もあれば、3分の規定時間をフォール、ギブアップなしで乗り切ることも。デビュー前日のエキシビションでは声を出し、気合いをこめて攻撃を繰り出していた。
“12歳の子供”が徐々にレスラーらしくなっていく。その過程を常連ファンが見守った。アイスリボンが練習生のエキシビションを観客に見せるのは、実力のテストであり成長を促すためでもあり、また早くから顔と名前を覚えてもらうため。藤本は試合後のグッズ販売(サイン会)でも「練習生ぶどう」を横につけてファンの目に触れさせた。
デビュー戦の相手は「元祖キッズレスラー」のラム会長
7月4日、デビュー戦の相手は「暗黒プロレス組織666」のラム会長。アイディアを凝らした試合と個性的なキャラクターがひしめく団体で、彼女は小学生の時にデビューした。現在は20代前半にして“15年選手”。元祖キッズレスラーと言うべき存在だ。キッズレスラーとしてはいったん引退し、復帰後“女子プロレス”のリングに初めて上がったのが、同じアイスリボンのSKIPシティ大会。相手は藤本だった。
「あの時に自分がもらった刺激と同じものを、ぶどうにも味わってほしい」
オファーを受けて、ラム会長はそう言っていたそうだ。ちなみにラム会長vs咲蘭は大会の第2試合に組まれた。新人のデビュー戦は第1試合が定番だが「オープニングセレモニーの直後だと、お客さんも心の準備ができないというか、緊張しすぎちゃうかなと思ったんです」と藤本は言う。なるほど、エキシビションを見てきたアイスリボンのファンにとって、ぶどう→咲蘭はすでに“うちの子”なのだ。
コスチュームの下に履くスパッツを忘れて大泣き
試合はラム会長が圧倒した。顔を踏みつけ、キャメルクラッチで絞り上げる。ただ一方的に潰しにいくような展開ではない。咲蘭の反撃を引き出すような闘いぶりだ。必死で繰り出すエルボーを受け止め、丸め込み技を返し、その上で逆エビ固めでギブアップさせた。シンプルかつ確実にダメージがある“対新人”の定番フィニッシュ。