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「松坂大輔、引退」名古屋の夜に明かしていた苦悩とは? 球数も怪我も言い訳にしない平成の怪物は、投げることに勇敢だった
posted2021/07/07 17:01
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
松坂大輔が現役引退を発表した。
松坂が中日ドラゴンズに所属していた2018年のシーズン終わり、こんな話をしてくれた。
「150キロ台をもう一度出そうと思えば出せる。でも今はそれをやるべきではない。長く続けるためにも。自分は軟投派だとは思っていない。身体の事を考えたら、パワーを最小限にして、相手との駆け引きの中で打ち取る術があるのだから、今はそちらを選ぶべき」
間もなく40歳という年齢が見えていた時、現役生活を出来るだけ長く伸ばしていくにはどうすればいいのか……彼の頭の中は“葛藤”の2文字が浮かんでいた。
あの唸るような「剛速球」を投げる姿にもう一度戻るのか。それとも少しでもマウンドに立ち続けるために、身体と相談しながら「打たせて取る」スタイルにモデルチェンジするのか。
選んだのは後者。けれど自分を「軟投派だと思わない」と添えるのが松坂らしいと思った。勝負どころではギアチェンジを行い、狙って三振を取りに行けるスタイルを構築する。150キロを1試合に1球ではなく、要所要所で何度もその切り札を使えるような身体をもう一度作る。40代に向けて、彼にはそんなイメージがあるように感じた。
「18年シーズンはもう1試合投げられた。でも今季は身体の張りが強くて、特に背中が固まるような感覚があって、ガチガチになっていた。身体の裏側が硬くて痛みになっていた。首脳陣と相談して、勝利投手となった9月13日が最後の登板になった」
振り返れば、今回の現役引退に繋がる首や背中の痛み、痺れは最後に勝利を収めた3年前から始まっていたのかも知れない。岐阜にある治療院をはじめ、自分の今の身体に合う治療院を国内中、探し回ったという。
「頑丈」と呼ばれた松坂も30代後半に差し掛かると“勤続疲労”が襲ってきた。