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《大関・朝乃山の番付問題》“三段目転落”の賛否「元大関と三段目力士の対戦は“残酷な見世物”にならないか?」
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKYODO
posted2021/07/10 17:03
2010年に現役引退した、横綱朝青龍
佐藤 老人や子どもや障害を持つ人たちと触れ合うって、無心に喜ばれることもあるし、本人のメンタルにもいいと思う。朝乃山の関係者とお話しする機会があったのですが、「今後、メンタルケアも必要なのか?」などとの話にもなり、「定期的に専門家のカウンセリングを受けるのもいいかも」「いや、通院している姿をまた写真に撮られたら面倒だし……」などとも話しまして。「そうだ! 部屋のベランダで故郷の富山のチューリップの球根を育てるのはどうか? 球根から芽が出て、成長し、花が咲くまで育てるって希望があって、まずは心理的にもいいかもしれませんね!」なんてことまで話が出てしまった……。
佐々木・能町 おおお! それはまた、いいかもしれない(笑)。
佐藤 みなさんは笑うんですけど、年齢的にも私はどうしても母親目線になってしまうんですよね。「番付降下うんぬん」というのももちろんなんですが、「若い男の子の精神状態はどうなるか?」と、今はまだ取り越し苦労かもしれないけど、心配するところです。あとは、ちゃんこ番とか洗濯とかの若い衆の仕事を一からやり直してみる。結局、学生出身力士として三段目付出しデビューで、トントンと関取となり、相撲界の下働きの経験は少ない。若い衆が雨のなかでもカッパを着て自転車に乗って関取のものの洗濯をしに、コインランドリーに行っている。その経験を今一度してみるのはどうか、と。逆に「コインランドリーに行く」というのが、ひとつの息抜きの外出にもなって、これはいいのかもしれない。でも、そこは師匠が考えるところでもあるかな。
“三段目陥落”ではなく“十両据え置き”でいいのでは?
能町 番付の昇降も、もうちょっと柔軟に考えないといけないと思うんですよね。謹慎していた阿炎が幕下で2連続優勝なんて、なんだか茶番みたいになってしまう。3月場所では、幕下の時栄が6連勝していて、阿炎と対戦しなかったら、もしかしたら十両に上がれたんじゃないかと思いましたし。朝乃山が三段目で取り組むなんて、ちょっと残酷な見世物だとさえ思えてしまうんですよ。照ノ富士と違ってケガや病気で落ちているわけでもないですし、「元大関と若い三段目力士の熱戦!」なんて想像できない。それこそ対戦相手の力士がケガでもしたら……。私が勝手に考えているのは、ある程度上位の人だったら、昔でいう張出(はりだし)のように、「十両最下位張出」として留めておく。「十両据え置き」ですね。再出場の時は、そこからスタートする。ついでにいえば、処分を受けての休場に限らず、ケガでの休場の場合ももう少し柔軟に考えないと。昨今は幕下以下の優勝が軒並み上から落ちてきた力士ばかりになっていて、若手がそこで押しとどめられてしまっている。
照ノ富士もそうですけれど、最近はみんな、すっぱり辞めないですよね。昔だったら「ここで引退してもおかしくない」っていうベテラン力士が、30代で幕下や三段目で優勝している。復活を目指すこと自体はもちろん否定しないんですけど、どこか変なサイクルが生まれちゃっている気もするんですよね。一朝一夕には変えられないとは思いますが、番付の昇降について、もうちょっと協会も柔軟に考えてくれたらなぁ、と思うんです。