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朝倉未来を失神させたクレベルは“ヒクソンと違いすぎる境遇”にいた 日系ブラジル人の格闘家が日本人に対戦を嫌がられた理由
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/06/23 11:03
RIZIN東京ドーム大会で朝倉未来に勝ったクレベルは、これまで多くの苦難を味わってきた格闘家だ
「タップしないと、壊れちゃう」一方で
朝倉未来もそう思っていたのか。果たして1ラウンドは得意の打撃でクレベルに相当のダメージを与えているように見えた。そして2ラウンド、朝倉のKO勝ちが期待される流れの中で、のちにSNSで論争の的となるコーナー際で三角絞めの攻防となる。
大会前のインタビューで朝倉は「俺はタップしない」という趣旨の発言について問われ、次のように答えている。
「結構昔に『簡単に俺たち(朝倉兄弟)はタップしない、格闘技の試合でタップしてすぐ終わって諦めるような兄弟じゃない』と言ったのを切り取られて今回当てはめられている」
有名税と言ってしまえばそれまでだが、今回実際に失神一本負けを喫すると、タップしない発言だけが一人歩きしてしまった感は否めない。
この件について、試合後のクレベルは複雑な胸中を明かす。「タップしないと、壊れちゃう」と心配する一方で、「彼はスピリットのあるホンモノの漢だよ」と称賛しているのだ。評価はひとつではない。
「タップするかしないかの問題ではない」
試合後にアップしたYouTubeで当の朝倉は偽ざる本音を明かす。
「気がついたら落ちてた」
問題の本質はタップするか否かではなかったと解釈すべきか。先日、筆者はかつてPRIDEでメインレフェリーを務めていた島田裕二氏と会う機会があった。今回のタップするか否か論争について島田氏は「僕はタップした方がいいと思っている」と前置きしたうえで次のような見解を示した。
「船木vs.ヒクソンのときもそうだったけど、一方が『タップしないぞ』と言いながらタップする奴はあまりいない。タップしようかどうしようかと迷っているうちに落ちてしまう。中学の柔道の乱取りでもそう。タップする前に落ちてしまうケースも多い。そういうことを考えれば、タップするかしないかの問題ではない」
では、どうしたらいいのか。
「セコンドがヤバいと思ったら、タオルを投げるかどうかの方が僕は重要だと考えています。昔から僕は双方のセコンドに『何かあってからでは遅いから、タオルを投げろよ』と事前に伝えています」
セコンドも勇気を持って判断しろということか。タップするか否かは選手だけの問題ではない。命を預かる周囲にも及んでいる。