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朝倉未来を失神させたクレベルは“ヒクソンと違いすぎる境遇”にいた 日系ブラジル人の格闘家が日本人に対戦を嫌がられた理由
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/06/23 11:03
RIZIN東京ドーム大会で朝倉未来に勝ったクレベルは、これまで多くの苦難を味わってきた格闘家だ
ヒクソン・グレイシーとは境遇が違いすぎた
ブラジルのMMAファイターといえば、ヒクソン・グレイシーやアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの名が思い浮かぶ。しかし、同じブラジル人でも、彼らとクレベルやサトシの境遇はあまりにも違いすぎた。
いみじくもクレベルは言う。
「ヒクソンやミノタウロ(ノゲイラ)は選手としてブラジルからやってきて、ショーの試合(ビッグイベント)をやりにきた。一方、私やサトシ先生は最初日本に来たときは工場に通っていた」
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日本ではなかなか評価されなかったクレベルの実力は海外で実を結ぶ。2017年5月、ポーランドの首都ワルシャワの国立競技場に5万8000人の大観衆を集めて行なわれたKSWで王者を下して第3代フェザー級王座を奪取したのだ。東京ドームという大舞台に立つ前に、クレベルはすでにビッグイベントを経験していた。
その後、さらなるチャンスを求め、アジアNo.1の格闘技団体ONE Championshipの登竜門というべき『ONE Japan Series』のメインに登場し勝利を収めたが、ONE本戦への継続参戦までには至っていない。
クレベルを何としてでも表舞台に出してあげたかった
さまよえる格闘家になりかねない境遇に置かれたクレベルに、手を差し伸べたのはサトシだった。昨年8月、RIZIN横浜大会で勝利を収めると、リングにクレベルを招き入れた。
苦楽をともにしてきた同い年のふたりには実の家族以上の深い絆がある。サトシは実力相応の扱いを受けていないクレベルを何としてでも表舞台に出してあげたかった。
時代の流れも味方した。新型コロナウイルスの感染拡大で外国人選手の招聘は困難を極める一方だったので、主催者にとって在留外国人のクレベルはありがたい人材だった。
昨年大晦日のRIZINさいたまスーパーアリーナ大会で、山本美憂の旦那カイル・アグォンをフロントチョーク(変形の裸絞め)で一蹴すると、今年3月のRIZIN 名古屋大会に連続出場を果たし摩嶋一整を三角絞めで下した。多くの対戦相手は「クレベルは寝技はうまいけど、スタンドの打撃には穴がある」と考える傾向があるという点もポイントだった。
「スタンドに活路を見出せば、十分に勝機はある。そう早合点してしまう選手は多い」(前述の関係者)