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“ヤバい登山”は何歳まで出来る? 52歳サバイバル登山家は“隠居”へ「ギリギリ失敗した山が一番面白いけどいつか死ぬ」
posted2021/04/10 17:02
text by
稲泉連Ren Inaizumi
photograph by
Masato Kameda
「家でごろごろ」と「狩りに出かける」…犬にとっての幸せは?
――ときどき釣り人が訪れるくらいで、「小蕗」には集落全体を見渡しても服部さんしかいません。小蕗での日々は犬のナツと「二人きり」の暮らしでもありますね。
服部 ナツは北海道の写真家・伊藤健次さんからもらったんだ。横浜の家で犬を飼いたいと思っていたとき、健次さんから「子犬が産まれた」と連絡があってね。山登りを一緒にしたいと思っていたからちょうどよかった。
そのうちナツは狩猟にも連れていくようになったんだけれど、あいつが新しい猟芸を発揮したときは、やっぱり嬉しい。半矢で逃げていった鹿の場所を教えてくれたり、戻り道が分からないときに俺を連れて帰ってくれたりさ。
ほとんどの人はそんなナツを見て、幸せな犬だと言う。一方でYouTubeに狩猟の様子なんかをアップすると、ナツが可哀そうだと言ってくる人もいる。普段は寝てばかりいるけれど、確かに犬の様子を見ていると、狩猟で犬としての才能を発揮することが幸せなのか、あるいは家でごろごろと長生きする方が幸せなのか、どっちなんだろうと、ときどき考える。
知り合いの猟師によれば、犬が狩猟で才能を発揮できるのはせいぜい3年くらいだと言うんだよね。以前に読んだジャック・ロンドンの作品に、犬をめぐる短編集『犬物語』がある。その中に「ブラウン・ウルフ」という短編があるんだけれど、そこでは座敷犬が犬としての生き方に目覚めていく様子が描かれていてね。自らに備わっている能力を発揮したくて、犬はうずうずしている。そこにこそ生きる上での深い喜びがあるのであって、犬自身に生き方を選ばせたら、リスクがあっても自分の力を発揮する方を選ぶはずだ――という趣旨のことをロンドンは作品によって伝えている。俺もその考えに同意するな。
だって、本来は人間だってそうだと思うんだ。犬が割と刹那的に生きているのに対し、人間は過去から未来へと広がる長い時間のイメージが頭にあるから、なかなかそんなふうには思えないだけでさ。ここで犬と一緒に生活していると、じゃあ、その犬と自分は何が違うんだろう、と思うこともあるな。
「体が動くのは40歳くらいまで」
――『家族サバイバル』の中にもあるように、現在の古民家での暮らしには年齢による心境の変化もあるそうですね。それは具体的にどのようなものだったのでしょうか。