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失明のおそれを伝えていたのに竹刀で… 空手・植草歩の告発で明らかになった「変われない組織」の実態
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/04/02 17:02
KARATE1プレミアリーグ2019マドリード大会での植草歩。東京五輪でもメダル有力候補選手と考えられている
失明する可能性があるのを知りながら練習続行
日本大学アメリカンフットボール部の件を想起する。あのときは相手選手に怪我をさせる危険性が予見されるプレーを選手に強制した。今回は教え子に対してだが、失明の可能性すらあることを伝えていたにもかかわらず、練習を続行した。
相手側の選手であれ、自身が指導する選手であれ、導くべき選手を傷つける可能性がある行為を実行した点で、連想せずにはいられなかった。
香川氏を擁護する声もあるが
一方今回の件をめぐり、かつて指導を受けたことのある人々などから香川氏を擁護する声も上がっている。香川氏の指導によって成長できたことや、香川氏は教え子への思いの強い人であったことなどを訴えている。
香川氏と信頼関係を築けていた人がいたとしても、それと植草と香川氏の関係は別だ。植草によるブログには、気になるくだりがある。
該当部分を引用する。
「昨年9月頃から、師範から、練習環境のこと、大学院進学のこと、その他プライベートや自活の為の仕事のことなどで、自立心・自尊心を傷つけられたり、大声で怒鳴られたりすることが多くなりました。
そして12月頃からは、私は帝京大学へ行くこと、そして師範と顔を合わせることもとても辛くなり、練習のために道場へ向かうときも涙が止まらぬ日々を過ごす事となりました。息苦しい環境での練習による精神的苦痛から、練習に参加できないまま、帰宅することもありました。その頃は、余りの辛さに、精神的に追い詰められたような状態になっていました」
浮き彫りになるのは、竹刀による負傷以前の信頼関係の欠如である。香川氏が信頼関係に基づいた指導であったことを主張しても、すでにそれは失われていた。練習に参加できずに帰宅することもあったとは、相当の事態だ。その延長線上に竹刀の件がある。