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リオでメダルを逃し「とんでもないことを…」柔道・田代未来が重圧のなか「私は私の道を進む」と前を向けたワケ
posted2021/04/07 11:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Shuhei Nishida
東京五輪柔道女子63kg級代表内定の田代未来には忘れられない光景がある。
「3位決定戦に敗れたときは、背負っていた重いものがなくなったと感じるのと同時に、とんでもないことをしてしまったという申し訳なさでいっぱいでした」
2016年リオ五輪で日本柔道陣は史上最多の12個のメダルを獲得し、女子も7階級のうち5階級でメダルを獲得。「帰りは同じ飛行機に乗りたくなかったですね。一緒にいるのが恥ずかしくて」と悔しさを滲ませた。
「もうあんな思いはしたくない。そして、次は成長した自分を見せたい」
勝負師らしく負けず嫌いな性格である一方で、ネガティブな一面を持つ彼女は、これまで、ここぞという大舞台で本来の力が発揮できず、無念の涙を呑んできた。
「柔道が楽しいと感じられたんですよね」
しかし'17年12月、ロシアで行われたワールドマスターズで、それまで一度も勝てなかったフランスのアグベニューに勝利し、心境に変化が生じた。
「私もできるんだと自信を持てるようになったんです。“もっともっと頑張れる”という前向きな気持ちにも。なにより試合をやりながら柔道が楽しいと感じられたんですよね。ワクワクするというか」
同階級の絶対女王と言われるアグベニューは世界選手権を3連覇中。「成長過程において欠かせない存在」だという。
「その後はまたずっと負けているんですが、何をしても満足させてもらえない相手ですね。ただ、アグベニューがいるからもっと強くなりたいと思うし、勝ちたいという思いを強くさせてもらっている。彼女と対戦するまでは倒れてなんていられないですよ。本当に強い選手だからこそ、東京では決勝戦で戦いたいです」
日本のお家芸である柔道は常に金メダルが求められ、大きな重圧がのしかかる。でも、「私は私の道を進むだけ」。5年前の弱い彼女はもうどこにもいない。
田代未来Miku Tashiro
1994年4月7日、東京都生まれ。コマツ所属。'16年リオ五輪に出場。'18、'19年世界選手権では銀メダルを獲得。3月、約1年ぶりの実戦となったグランドスラム・タシケント大会で優勝した。164cm。