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【天皇杯優勝】「違うんです!」川崎・佐藤HC“4年前の後悔”と長谷川技が明かす「全員の力」の意味
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJBA
posted2021/03/23 11:00
優勝を決め胴上げされる川崎ブレイブサンダースの佐藤賢次HC。決勝の相手となった宇都宮ブレックスは因縁のライバルでもある
「良い表情をしているな」
具体的には、良いオフェンスができないで終わった後にも、気持ちを切らさず、守備で良い準備をして相手の攻撃を食い止めたシーン。そんなシーンを2つ見せてから、こう訴えた。
「うちが目指してきたものはどんなときでも発揮できている。習慣はもう身についているんだ! 積み重ねてきた習慣は揺らぐことがないから、自信を持っていこう!」
ミーティングが終わり、佐藤は思った。
良い表情をしているな、と。
昨年はミーティングのあとに昼食をとったが、今年は良い表情のまま選手たちがアリーナ行きのバスへ乗り込むのを確認できた。
疲労回復を主たる目的としたスケジュール変更だったが、予想以上の効果があったのかもしれない――。
長谷川技と川崎の攻撃のはじまり
長谷川技は、試合開始から3分6秒の時点で1つ目の決定的なアクションを起こした。
長谷川のマークするLJ・ピークが、ジョシュ・スコットからの手渡しパスをもらい、直後にスコットがスクリーンをかけてパスを受け、ピークをフリーにするべく動き出していた。
その狙いに気づいた長谷川は、ピークがパスをもらう直前に、上手にファールを使い、このプレーを止めた。こう考えていたからだ。
「ピーク選手は波に乗ると、いくらでも点を取ってくるので。そこで気持ちよくプレーをさせないために、あそこでファールすることができた。そのあとも点を取りに来ることはあまりなかったので、上手くいったのかなと思いました」
そうしたプレーこそが、佐藤の求めるものだった。
「強度の高いディフェンスを試合の頭からやれるというのは、うちの一番の強みです。長谷川が、ああいう賢いファールを使いつつ、相手を勢いに乗せない。そこから、オフェンシブなラインアップにつなげる。それが勝利への良い流れになってきているかなという思いがあります」
長谷川が体現したものはそれだけではなかった。
第2Q(クォーター)の残り6分50秒のシーン。ピークが全力でドライブをしかけてきた。最後は身体のバランスを崩しながらも、シュートを決めた。
しかし、ピークがバランスを崩すのを視界に捉えた長谷川は、ピークの個人技にやられた悔しさなど少しも感じさせず、相手陣内へ向かって走り出した。そこでパスを受け、川崎の攻撃は始まった。
そして、最後は篠山竜青が3Pシュートを決めた。ここでリードを奪って以降、最後まで追いつかれることはなかったという意味で、価値のある攻撃だった。
長谷川は振り返る。
「相手に決められても、下を見ずに、前を向いてやっていけというのは、HCの賢次さんがいつも言っていることなので。それをしっかり実行したプレーでした」
佐藤はそうした指示を繰り返してきた理由について、以前こう明かしている。
「HCになって、自分たちのオフェンスをイメージしたとき、『ちょっとしたズレを手にすることによって輝く選手が、うちにはたくさんいるぞ!』と。そのズレを作るためにも、相手より先に動き出さないといけないという考えがあったんです」