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チームが二冠を達成しても揺るがなかった“川崎フロンターレのレジェンド”中村憲剛の引退への決意 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2021/03/17 11:00

チームが二冠を達成しても揺るがなかった“川崎フロンターレのレジェンド”中村憲剛の引退への決意<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

怪我したことを悔やんでどうする?

 40歳で引退しようと決意がほぼ固まっていたなかで、その前年である2019年11月に前十字靭帯を損傷してしまいました。全治7~8カ月。普通に考えたら誰もが39歳になってこの大怪我をした中村憲剛は終わったかもしれないと思ったと思います。だけど自分だけは怪我をしたことで終わりの道筋がはっきりと見えたんです。

 だから、怪我をした時はいつも以上に切り替えが早かった。だって仕方ないじゃないですか。怪我したことを悔やんでどうするんですか? 憂えてどうするんですか? それよりも1日も早く戻るために気持ちを前に持っていくことの方が大切。誰かが助けてくれるわけでもない。自分自身で少しでもいい方向に持っていけるように努力をするべきではないのか。これは昔から思っていることです。

 中学生の時、周りのみんなは背が伸びているのに、僕は身長が伸びず、小学生の時にできていたプレーさえできなくなって、すごく劣等感を感じていました。だけど、途中でこのままでいいのかと悔しくなった。コンプレックスを持っているのは自分だけじゃない。みんなも多かれ少なかれ持っている中で、どうやって自分の良さに変えていくか。結局自分で自分を磨き続けるしかない。体格や身体能力が劣っていても、ポジショニングやボールコントロールで差をつければいい。中学生の僕がその思いに到達するのに、半年以上かかりました。

ダメになる原因を作るのは自分自身

 子供たちに言いたいのは、みんなには可能性しかないということ。でもその可能性を削って行くのは自分だということも言いたい。この世界は愚直に頑張り続けることが絶対に必要です。しかも頑張り続けても花が開かないことが往々にしてある世界です。どう頑張るか、頑張りの質が問われてきます。辛いこと、苦しいことを周りのせいにして自分にベクトルを向けなくなったら負けだと思って欲しい。どんなに苦しくても、悔しくても今置かれている環境のなかで、どうやって自分が良くなっていくかを考えた方がよっぽどポジティブです。ダメになっていく原因を作っているのは常に自分自身だと思ってほしい。

 学生時代は同年代とプレーをするので、活躍できる子はたくさんいます。だけどプロになると、年齢層が幅広くなり、自分よりも能力や技術が高い先輩や後輩がたくさんいます。ほとんどの選手が学生時代のままでは通用しないことを思い知らされます。そのなかで対応していくためには、今から柔軟性や順応性を養っていく準備をしておかないといけない。プロに入って、長くプレーできる人なんて、本当にひと握りです。長くキャリアを築いている人たちは、みんなどこかで挫折をし、そこから歯を食いしばって這い上がってきている。むしろトントン拍子にキャリアを進めてきた選手の方が壁にぶつかったときに脱落しやすいです。だから僕は若いうちに壁にぶち当たった方がいいと思っています。そうすればどうやって壁を乗り越えていくかを自分で考えることができるし、這い上がるメンタリティも養えますから。

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