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貧民街育ちの女性柔道家を金メダリストに… ブラジルで指導、藤井裕子監督に感じる“夫婦の新たな形”とは
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byAFP/AFLO
posted2021/02/24 17:12
ラファエラ・シルバと藤井裕子監督。厚い信頼関係で結ばれている
ある日突然、ケロっとした顔で道場に来て……
――非常に厳しい状況ですね。
「すると、ある日突然、ラファエラが道場に現われました。ケロっとした顔で、『ドルジスレン(・スミヤ=モンゴル)の攻略法を教えてよ』と言うんです。ドルジスレンは組むのがうまく、低い体勢からの背負い投げの切れ味がすごい。彼女が苦手にしていた選手です。相手に得意技を出させないよう、一緒に組み手を研究しましたた。常に脇を締め、どこでもいいから胴着をつかむことを徹底させた。その他の有力選手の対策も立てました」
――以後のラファエラの様子は?
「吹っ切れたような顔をしていました。プレッシャーを克服したようで、心身のコンディションがどんどん上向いた。『これなら行けるかもしれない』と思いました」
――リオ五輪でのラファエラの試合当日は?
「柔道競技の3日目で、ブラジルはメダルが取れていませんでした。
私はコーチなので、試合会場ではなくブラジル代表の練習場ですべての選手の試合直前の調整に付き合わなければならない。ですから、練習場で抱き合って送り出した。『頑張れ』という思いで、涙ぐんでいました」
◆ ◆ ◆
ラファエラ・シウバは、1回戦でドイツ選手に見事な背負い投げで一本勝ち。2回戦で韓国選手を倒し、準々決勝でロンドン五輪で反則負けを喫した因縁のハンガリー選手を技ありで下す。そして、準決勝で延長の末にルーマニア選手を退けると、決勝で裕子さんと共に徹底的に研究したドルジスレン・スミヤから返し技で技ありを奪い、優勝を遂げた。開催国ブラジルにとって、金メダル第1号だった。
――ラファエラの奮闘をどう眺めていましたか?
「練習場のテレビで、試合を見ながら必死に応援していました。彼女は、『勝つのは私だ』という自信に満ちた顔で堂々と戦い、勝ち続けた。優勝の瞬間は、これまでの彼女の苦闘と頑張りを知っているので、とても感動しました」
――試合後、ラファエラがスタンドの関係者がいるエリアに飛び込んだら、清竹君を抱いた陽樹さんもそこにいて、号泣していましたね?
陽樹さん「僕もラファエラたちの練習にいつも一緒にいて、ブラジル柔道関係者の1人みたいになっていたので……」
――ラファエラ以外に、ブラジルは女子78kg級で銅メダル、男子100kg超級で銅メダルを獲得しました。この結果については?
「女子は成功でしたが、男子がやや物足りなかったです」
――男子がそのような結果に終わった理由は?