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夫が育児と家事を受け持ってくれるからこそ、ブラジル男子柔道監督に… 日本人女性指導者に直撃インタビュー
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byAFP/AFLO
posted2021/02/24 17:10
2018年頃の藤井裕子監督。そのキャリアは非常にユニークだ
――バース大学での生活は?
「外国人用のクラスで英語の勉強をして、その他の時間は柔道部でドイツ人監督の助手を務めました。柔道の強豪校で、英国代表クラスの選手もいた。他に、子供たちの指導もしました」
子供から「なぜその練習をするの?」と
――最初は、言葉の壁もあって大変だったのでは?
「相手の言うことが理解できないし、自分の意思も伝えられない。指導の仕方もわからないし、選手とのコミュニケーションすらうまく取れない。しばらくは、監督の指導をひたすら真似するだけ。
でも、英国では『何十回、打ち込みをしなさい』と指示すると、子供でも『なぜその練習をするのか』と聞いてくる。日本では指導者の指示に従うのが当たり前で、誰も疑問など持たなかった。面食らってしまい、きちんと説明できませんでした。私生活でも、家族や友人が身近にいなくなり、孤独を感じた。様々な壁にぶち当たりました」
――それらの障害を、どうやって乗り越えたのですか?
「とても重要な出会いがありました。
大学に柔道指導者養成コースが開設され、フランス人のパトリック・ルー、英国人のジャーン・ブリッジという2人の柔道家が指導教官としてやってきた。彼らは、基本を大切にして、とても美しい柔道を教える。それを見て、『私もこういう指導をしたい』と思った。自分が幼い頃から日本で叩き込まれてきた柔道を、自信を持って教えていいのだとわかりました。
それからは、“金魚のフン”のように2人にくっついて指導法を学んだ。柔道指導者になるという目標ができました」
2人とも世界柔道界の重鎮となっている
裕子さんが語ったパトリック・ルーは、現役時代は男子60kg級の選手で、1987年の世界選手権3位、欧州選手権優勝。現在はロシア女子代表監督を務める。またジャーン・ブリッジは、1980年世界選手権の女子48kg級で優勝。現役引退後は指導者となり、現在は欧州柔道連盟の役員を務める。いずれも、世界柔道界の重鎮だ。
――英国柔道代表のコーチに抜擢されたいきさつは?