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《全日本女王が19歳に》紀平梨花が自身初の“4回転”ジャンプ成功を「計画通り」と語った“ワケ”
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byKeiichiro Natsume
posted2021/07/21 06:00
紀平梨花は4回転を跳んでもなお、上を目指し続ける
筋肉でジャンプが跳べるようになった
合宿終了後も、コロナ禍でも安定して練習できるスイスに残留することになった。
「キャンプ後は、筋力トレーニングの量が増えました。ステファン先生が同じ量だけこなすトレーニングもあるので、負けていられません。休憩も息継ぎ程度しかないので、『疲れた』と喋ることもできないんです。みんな真面目に無言でやってるので『もう無理!』と、心の中でつぶやいていました」
身体の変化を感じたのは脚だった。
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「体幹の強化は昔から結構やってきたので大丈夫でしたが、太もも、裏ももは筋肉痛がすごかったです。まずは身体全体がパンパンになって、そのあと脚の筋肉痛、痛みがとれると疲労でカチカチになりました。身体の反応が変化していくので、少しずつ『身体が慣れてきたな、筋肉ついてきたな』と実感はしていました」
9月以降、日本では国内大会が始まっていたが、すべての情報を遠ざけ、夢中でトレーニングを重ねる。やがてジャンプに効果が現れ始めた。
「トレーニングが無い日の翌日や、オフの翌日に、めちゃくちゃ調子が良くなって、ジャンプが軽く跳べるんです。なにより筋肉で跳べるようになったことで、高さが出ました。以前はジャンプを腕で跳んでいて、脚は回転力をつけて締めるイメージで使っていました。今は踏み切るときに高さを出すために、脚を使うようになりました」
筋肉により“鈍感”になるのは危険
一方で、“鈍感化”という変化も感じていた。
「以前は、『この靴の、この位置じゃないと跳べない』ということが多かったんです。でも筋力がついたことで、合わない靴に気づかずに、筋力で跳べるようになってきていました。あと疲労がちょっとあっても、筋力があると、ある程度まとまった練習が出来るようになっていました」
それは良いことなのでは、と聞くと、紀平は「違う」と即答した。
「気づかなくなったらダメなんです。やはり試合の一発は『めちゃくちゃ完璧』の状態に持っていかないと降りられないので、少し変な状態でも練習できてしまうというのは、本番に繋がらないんです。だから夏のあいだ、身体が疲れすぎていて、靴が合ってないのに気づかないで練習してしまい、鈍感になっていくのは危険だと感じていました」
単純に「たくさん練習すればいい」とは考えない。練習と試合の差を知っているからこそ、鈍感になる自分に抗おうとした。
身体作りと並行して取り組んだのは、“靴の調整”だった。