4回転を跳んでも「計画通り」

　ショートの本番は見事なトリプルアクセルを成功。そして2日後のフリーでは、4回転サルコウが鮮やかな弧を描いた。

「思ったより冷静で、『今回跳ばないと、もう私は次に進めない』という気持ちでした。もし4回転でミスをしたら、他のジャンプもミスがでてしまうから絶対に跳ぶしかない、という気持ちでした。そして跳んだあとも喜ぶとかではなく『計画通り』という落ち着いた気持ちでした」

　改めて初成功の4回転を振り返る。

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「トレーニングをやって筋力がついて、高さが出たことが4回転サルコウに現れたと思います。身体がよく動いている公式練習では、もっと高い4回転を跳べていました。でも本番は6分間練習のあと最終滑走まで時間があいて、少し身体の動きが鈍くなります。練習でギリギリだと本番は回転不足になっていたと思うので、トレーニングの効果のおかげだと思います」

　そして初成功の“勝負靴”へ思いを馳せる。

「いつ何が起こるかわからないので、あの靴はまた世界選手権やオリンピックで使うかもしれない大事な靴。だからもう練習では使わずに取っておきます。明日からは新しい靴を慣らしていきます。でも15足くらい試しても、試合で使えるラインを超える靴は1、2足くらいしか出来ません。私にとっては、ジャンプを降りていても『これは試合になったら成功しない跳び方だ』というのと『絶対跳べる』のと、その感覚の差が分かるんです。フワッと無意識で上がれる跳び方。『これなら試合でノーミス出来る』という絶対のラインがあるんです。そのライン以上の靴は、今回の靴しかないので、これから何足か作っていかないといけません」

自己ベストを超える得点でもロシア選手権を見ると

　参考記録ながら自己ベストを超える234.24点での優勝。しかし同日程で行われていたロシア選手権を意識し、満足はしなかった。

「ロシアの子たちの点数は見ました。私が目標にしているフリーの160点台をはるかに超える選手もいて、もっと難度の高い4回転を跳んでいます。私は今回、フリーの3回転ルッツも止めていましたし、もっと質の良いジャンプを跳べるところもあったので、10点以上は上げられます。まずは体力も筋力も集中力も、色々なことを修正していきたいです」

　初の4回転成功にも気を緩めない。次にやりたい技はと聞くと、冗談めいて言う。

「バックフリップできるようになりたいです。エラジ・バルデさんやネイサン・チェンさんがやってるバク宙みたいの。あれが出来たらカッコイイなあ、って。陸でもやったことないけど、いつかやりたいとメッチャ思ってます」

　その夢も叶えるのだろう。心技体の要素を冷静に分析していく、紀平流の必然的なアプローチを使って――。