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《全日本女王が19歳に》紀平梨花が自身初の“4回転”ジャンプ成功を「計画通り」と語った“ワケ” 

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byKeiichiro Natsume

posted2021/07/21 06:00

《全日本女王が19歳に》紀平梨花が自身初の“4回転”ジャンプ成功を「計画通り」と語った“ワケ”<Number Web> photograph by Keiichiro Natsume

紀平梨花は4回転を跳んでもなお、上を目指し続ける

『本番に持って行く』という私のやり方

「とにかく私の場合は靴がすべて。昨季は試合が頻繁にあったので、常に『靴を合わせなくちゃ』と焦っていました。練習中に『あれ梨花ちゃんまたいなくなって、靴やってる』と言われるくらい、靴を履き替えたり、エッジの位置を調整したり。でも合わない靴では本番で失敗することも分かっていたので仕方なかったんです。'19年のグランプリファイナルは靴になじめず、4回転サルコウまでは合わせられませんでした。今季は、試合1週間前には靴を決めて、感覚を染みつかせて、跳び方をイメージ出来る所まで持っていこうと思っていました」

 身体を整え、靴を準備し、その次に必要なのはメンタルだと考えていた。

「もともと昔から、まわりがビックリするほど練習では調子が悪くて、本番になんとかギリギリ間に合わせるというふうになってしまっていました。『試合でやるために』と考えて、練習はギリギリまで靴の調整などで調子が悪くても、大丈夫と思えるようになりました」

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 日本では、「練習で100%成功させてこそ、本番でも出来る」という考え方が根強い。それは努力や根性、真面目さをアスリートに求めるがゆえの傾向だろう。しかし紀平は「本番一発」の重要性を肌で感じていた。

「その点では、スイスの先生方は、どんなに調子が悪くても、焦る様子もなく受け入れてくれるんです。ステファン先生も『本番に持って行く』というやり方を掴んでいるからこそでしょう。練習スケジュールも、私が望んでいた通りの組み方になっていて、キツいトレーニングの翌日が軽いメニューだったり、オフの翌日に4回転をやって自信をつけたり、試合当日にむけたスケジュールもそう。『疲労を調整してこの瞬間に(ピークを)持って行く』という作り方を繰り返していくうちに、『本番に持って行く』という私のやり方は正しいと感じさせてくれました」

保存してあった靴の感触はよかった

 エントリーしていた11月のフランス杯が中止になり、12月25日からの全日本選手権がシーズン初戦となった。

「やはり試合がいつあるか分からない状況で、モチベーションの維持が難しかったり、筋肉痛で跳べないことが不安になる日もあったり、トレーニングが正解なのか分からなくなる時もありながら頑張ってきました。オフの時間がすごく長く感じるときがあった、というのも事実です」

 全日本選手権の1カ月前に帰国し、2週間隔離を経て、濱田コーチのチームと合流。その後、ステファンチームとも合流すると、本番1週間前には、靴を最終決定した。帰国後の練習でやわらかくなった靴をやめ、以前に「感覚がいい」と思って保存してあった靴を取り出してきた。

「すごく良い感触だったので『とっておいて良かった~』って思いました」

 2人のコーチからアドバイスを受けたこともプラスに働いた。

「サルコウでは、空中姿勢が後ろに行かないよう真っ直ぐにとか、トリプルアクセルは踏み切る前に、右足から左足に踏み換える時に前後に揺れないように、ということも言われました。2人の先生の教えをどちらも取り入れることで、調子が良くなっていきました」

【次ページ】 4回転を跳んでも「計画通り」

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