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藤井聡太二冠と研究者が組む? 最強ソフト生みの親が語る「AI超え」がもはや“時代遅れ”である理由 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byJIJI PRESS

posted2020/12/27 17:02

藤井聡太二冠と研究者が組む? 最強ソフト生みの親が語る「AI超え」がもはや“時代遅れ”である理由<Number Web> photograph by JIJI PRESS

「自作の50万円PC」が話題になった藤井聡太二冠

山田 藤井二冠の「3一銀」も、コンピュータ将棋だと10分くらい読んだうえで出てくる候補手だったそうですね。とはいえ、観る将としては、「もっといい手があるのか」と理解できるし、将棋自体をわかりやすくしてくれた気がします。たとえ候補手があっても「次の一手で何を指すか」は面白いので。

杉村 開発者としては、それくらいの距離感が一番幸せな関係なのでは、と思います。でも評価値を重く見て“この棋士はなんて悪手を指したんだ”と捉えるのは違っていて、AI将棋は決して完璧じゃないし、そもそも将棋に絶対はないので。

コンピュータ将棋が示した「戦法の評価値はほとんど変わらない」

――AI将棋と棋士の共存がどんどん進んでいく、それぞれの違いもくっきり見えてくる気がします。

山田 杉村さんは将棋ソフトを作る開発者として棋士の方とも接していらして、コンピュータと人間の違いはどう見えていますか?

杉村 人間と一番違う点は、コンピュータ将棋は“ボロ負け”を全然怖がらないこと。コンピュータは詰みまで指すのが当然だと考えていて、人間における「投了」という概念がないんです。そもそも詰みになる場合は、詰みの手数が一番長くなるような選択をとるプログラムになっています。なので、コンピュータ同士の対局となると、玉が逃げ回った末に負けるというのはよくある話なんです。

 ただそれはコンピュータ将棋が「勝率を上げる」ということを最重要課題に設定して、とにかく負けないための指し手を考えるような仕様にするので。

山田 でも「負けない」って大事ですよね。

杉村 そうです。他にもコンピュータが人間に示してくれることは多くて。

 例えば、コンピュータ将棋では色んな戦法の評価値がほとんど変わらないことが分かってきているんです。それこそ映画『AWAKE』でも「(将棋ソフトが)自由な手を指している」というシーンがあったと思うのですが、そういう意味ではAIが将棋の奥深さを再発見してくれたとも言えます。

山田 確かに最近は以前より戦法が幅広い気がしています。ちょっと前は角換わりしかなかった印象ですから(笑)。

杉村 必勝法はないとなると、コンピュータ将棋も人間も目標は同じで、“どれだけ真理に近づけるか”だと思うんです。

 いまはまだコンピュータは「単純に強くなる」ということに注力している部分がありますが、もっと学習的な部分を強化していって、それこそ棋士の先生がもっと強くなるための“手段”になっていけたら面白いなと。

山田 対決の時代も面白かったけど、コンピュータと人間が共存していくのも面白そうです。

<撮影=杉山秀樹>

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https://number.bunshun.jp/articles/-/846433

映画『AWAKE』

公式サイト)https://awake-film.com/

出演:吉沢亮 若葉竜也/落合モトキ 寛一郎
監督・脚本:山田篤宏

配給:キノフィルムズ

2020年12月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開中

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

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