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藤井聡太二冠と研究者が組む? 最強ソフト生みの親が語る「AI超え」がもはや“時代遅れ”である理由
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJIJI PRESS
posted2020/12/27 17:02
「自作の50万円PC」が話題になった藤井聡太二冠
世間的な「AIを超えた」は時代遅れ
杉村 私が本来意図した意味(※6月28日に行われた棋聖戦五番勝負第2局で、藤井七段の58手目、3一銀を「水匠2」に4億手読ませた段階では5番手にも上がっていなかったのが、6億手読ませると最善手となったとツイート。これが“AI超え”という表現になった)とは違うんですけど、多くの人が思う「AIを超えた」というニュアンスで考えるなら、ある意味で、時代遅れなんですよね。
山田 というと?
杉村 さっき山田監督もおっしゃった通り、AI将棋と棋士の共存は始まりつつあるんです。だけど、世間的にはまだ「人間とコンピュータの対決」という時代から抜け出せていないのかな、と感じます。
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山田 私も“AI超え”との言葉を聞いたときに思ったのは、やっぱりまだ人間側に恐怖心みたいなものがあるなということでした。ただ2017年頃の将棋ブームで騒がれたのは「昼食のメニュー」でしたから、だんだん将棋の中身の話になってきているし、まあいいのかなと(笑)。
将棋ソフトが信用されすぎて……
杉村 たしかに(笑)。将棋の本質的な部分に光が当たったのは嬉しいことですよね。ただやっぱり将棋ソフトを作っていてすごく思うのは、やっぱり棋士の先生は天才である、ということなんです。
私なんか、将棋ソフトは作ってますけど、自分自身の将棋の実力は皆無なので(笑)。それくらい将棋って難しくて、だからこそ自分の頭だけであそこまで強くなるって普通の人には絶対できない。ましてや、手練れだらけの奨励会から勝ち上がってプロになった方は、本当に特別な才能をお持ちで、当然ながら努力もしている人なんですよね。
山田 でもわかるな~。私もスポーツとか見るタイプじゃなかったんですけど、将棋にハマってからようやく「アスリートに憧れる気持ちってこういうことなんだな」と分かりました。それぐらい圧倒的な才能ですよね。
杉村 そう。だから“AI超え”で受け取られているニュアンスもなにか引っかかるというか。
最初は、将棋ソフトを完成させて棋士と対局できるレベルですごいと言われていたのに、性能が上がって、ここ数年は「将棋ソフトは強い」という認識がファンのなかで強くなってきている。昔は、「まあコンピュータの言ってることだからな」ぐらいだったのが、むしろ信用されすぎているように感じます。それを象徴する言葉が“評価値ディストピア(※)”かなと。
(※将棋ソフトが示す“最善手”がある一方で、人間の観点でいかに将棋を研究していくのかの葛藤。佐藤天彦九段がこう表現したことで、将棋ファンの中で話題になった)