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スキー・モーグルで冬季オリンピック5大会連続出場! 上村愛子が困難の中で幸せを見つける方法
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/12/30 11:00
すべては競技の延長線上にある
例えば、若い頃は自分が前向きにやりたいと思うトレーニングと、やらなきゃいけないトレーニングとの線引きがすごく難しくて、苦しかった記憶があります。
でも結局、やらなかったあとの試合って、すごく弱いんですよ。この感覚でやっていると自分はダメだ、最終的には自分がとても辛い思いをするんだということに気付いた。
これをやって何になるんだろう? と思う苦しいトレーニングもあるけれど、やらなければ自分に返ってくる。やったことが確実に結果に出るとは限らないけど、やらなかった自分よりやった自分の方が自信を持って、堂々とその場に立てるということにも気付きました。
すべては競技の延長線上にあるということが腑に落ちたから、辛い練習にも取り組めるようになりました。
そうすると、自分が今日やるべきことは終わった! って自信を持てるので、おしまい! とオフのスイッチも上手に入れられるようになるんです。頑張る時は頑張る、休む時は休むでいいよね、って20代中盤から少しずつ開き直れるようになって、気持ちがすごく楽になりましたね。
しかも年齢を重ねると、余計楽になるんですよ。やっていることは若い頃と変わらないどころか、もっと大変になっているかもしれないけれど、経験を積んだ自分はそのことを大変だと思わなくなっている。自分の中でやるべき理由もわかってきて、どこに繋がっているかも見えているから気持ちが楽なんでしょうね。
多くの物事を穏やかに受け入れられた
モーグルは毎回、雪質もコースの固さも、天気や寒さも違います。練習だと1本目と1時間後でコブの形が全然違うことだってある。その中で今までやってきたことを全力で出し切らないといけないんですね。
こんな状況だからうまくいかなかった、こういうコンディションじゃないと私はいい滑りができないとか、イライラするとうまくいかないことの方が多い。
もちろん理想像はありますけど、自然の中で行なわれるスポーツなので、自分も状況も100点満点なんて奇跡みたいなことはなかなか起きない。あるがままを受け入れて、その中で最善を尽くすしかないと気付いてから、競技に限らず、多くの物事を穏やかに受け入れられるようになりましたね。
それにチャレンジする楽しさってあるじゃないですか。雪の上に立って、こうやって滑れるんじゃないかと考えたり、次はこんな滑り方ができるように体力をつけたいなとか。うまくいかなくても、チャレンジ精神が湧いてくる。その状況が楽しいんです。