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<全国高校駅伝>大迫傑、佐藤悠基…なぜ佐久長聖は名ランナーを次々に輩出できる?「テレビもゲームも禁止」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byAsami Enomoto
posted2020/12/19 17:04
佐久長聖の名物クロスカントリーコースで練習する選手たち。両角前監督が自らの手でゼロから整備した
不思議に思っていると、高見澤は「基本的には練習の中で、あとは練習日誌ですね」と教えてくれた。
「練習日誌は、特に決められたシートとかはなく、大学ノートに子どもたちが自由にいろんなことを書くようにしています。決められた項目を書かせると内容が金太郎飴のようになる。それだと子どもたちの個性を潰してしまいます。
また、大学生や実業団の選手が使用している携帯アプリもありますが、それだと嘘をつけてしまうんです。何km走ったとか、調子は5段階中5だとか。本当はそうじゃないのにそういうことにできてしまう。 練習日誌で私が重視しているのは、子どもたちが書いた『字』ですね。字でその時々の子どもの状態を判断できるんです。例えば、字が雑になっていると気持ちも荒れていたり、その逆もありますね」
駅伝強豪校は最先端のツールで管理されているのではなく、実はアナログなのだ。
最近の生徒は、多くの情報を得ることで練習でも「こうしたい」と自分の考えを伝えることが増えているが、中には面と向かって言えない選手もいる。日誌を見ることで、生徒がどういう思いでいるのか、それを踏まえた上でピンポイントで子どもに声をかけていくことができる。思春期の高校生は心が不安定になりがちで、それが走りにも影響してしまう。文字から選手の心理を読むことでキメ細かい指導を実現しているという。
県外の選手をどう「スカウト」している?
こうした指導方法は、チームを強くするための重要事項である練習環境のうちのひとつだが、もうひとつ重要なのが、スカウティングだ。
佐久長聖は、基本的に県内の選手がメインだが寮があるので県外からの選手もいる。県外の選手については、その多くは先方から声がかかるという。
「他県の選手は、その生徒の先生からお話があるケースがほとんどです。単純に『いい選手がいる』と声をかけていただいたり、『この選手はうちに来ないんで他校に行かれると困るから声をかけてやって』というのもあります(笑)。うちは基本的に、それぞれのところ(都道府県)で頑張ってお互いを認め合うことが大事という考えなので、闇雲に県外の選手を獲ることはしていません。
ただ、どうしてもうちに来たいという選手は、その先生にまず話を聞きます。選手と同じ県の学校で『うちが勧誘しています』という話があれば、手を引くようにしています。その逆は……けっこうあります。他県の学校が長野県の生徒に声をかけてくることがあるのですが(苦笑) 」
今年の主力である前出のエース伊藤、越陽汰(3年)、吉岡大翔(1年)は長野県出身だ。長野県の各中学校の陸上部の監督との間に長年築いた信頼関係とこれまでの実績を元に、佐久長聖を後押ししてくれる体制ができているという。
「そこが本校の強みかなと思います」
“基準”タイムに足りなかったひとりの生徒
だが駅伝部への入部は、誰でもウエルカムというわけではない。まず、3000mで9分20秒を切るタイムがないと入部ができない。