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谷井菜月がリードユース日本選手権でみせた “次元のちがうパフォーマンス”
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byIchiro Tsugane
posted2020/10/30 11:00
次元の違いを見せた49手目
もうひとつ谷井が次元の違いを見せたのが、49手目を取る動きだった。ユースAの2位から4位タイまでの4選手は、ここを取れずにフォールして48+の成績に終わったが、谷井はこともなげに通過した。
「そこは別に……普通でした。オブザベ(オブザベーションの略:競技開始前の課題の下見時間)の時に、先に足を高い位置に送って取ろうと考えたくらいかな」
そう淡々と振り返った谷井だが、ルート終盤の保持力や持久力がすり減ったなかでも、事前に考えたことを実践できるのが谷井の強さの秘訣でもある。
国際大会ですでに実績を残している谷井が、他を圧倒したのは当然の結果と言えるが、見方を変えれば、これから世界に打って出ようとする選手たちが高めるべきものを、谷井が示したとも言えるほどのパフォーマンスだった。
ユースBで優勝した中学3年の森奈央は、才能の片鱗を輝かせた。決勝ルートでは正面壁から側面壁へと移行するパートでほかの選手が使ったホールドを見落としながらも、安定した登りを見せてユース大会で初優勝。来年はシニア国際大会に出場できる年齢に達する森や、普段から谷井と一緒に練習をする中学2年の抜井美緒が、これからどれだけスケールアップしていくのかは楽しみなところだ。
アフターコロナの時代を牽引するのは?
一方、男子はジュニア、ユースA、ユースBで決勝課題を完登した選手は現れなかったが、ユースAでは吉田智音がもっとも高度を稼いで、8月のリードジャパンカップ(LJC)で2位の結果がフロックではないことを証明した。予選1位通過ながらも決勝は8位に沈んだ村下善乙(LJC6位)とともに、この世代のレベルをさらに高めていってくれるはずだ。
その8月のLJCで優勝し、昨年はW杯リードの優勝も経験したジュニアの西田秀聖は、予選を1位通過しながらも、決勝は余力を残しながらも高度36でまさかのフォールで2位。優勝を同学年の百合草碧皇にさらわれた。「来年はW杯リードで活躍するのが目標ですが、ユース大会に出場できる最後の年でもあるので、しっかりと忘れ物を取りに戻ってきます」と雪辱を誓った。
ユースBでは安楽宙斗がジュニアやユースAの選手たちを抑えて最高高度を記録して優勝。この2年間ほどで身長が15cm近く伸びたという安楽は、「登っているときの距離感で、まだ背の小さかったときの感覚と迷うことがある」というものの、身長が低かったからこそ磨かれたクライミング技術を存分に発揮して頂点に立った。
スポーツクライミングは8月のLJC、9月から始まったジャパンツアーに続き、今年初めてユース大会の開催に漕ぎ着けた。そして、来月末の11月21日からの3日間で『第6回ボルダリングユース日本選手権』(東京・葛飾区)の開催も決定している。
今大会にはリードよりもボルダリングが得意という選手たちが出場を見送るケースも少なくなかったが、11月はそうした選手たちも顔を揃えることだろう。新型コロナウイルスの影響でさまざまな制約のなかでトレーニングを積んだ成果を、存分に発揮する選手は誰か。
その選手がきっと、“アフターコロナ”の時代に日本を牽引する存在になっていくはずだ。