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“女性”の身体に「ありがとう」 元プロバスケ選手がトランスジェンダーをカミングアウトした理由
posted2020/10/11 11:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
本人Twitter
「僕は……」。ごく自然に、その一人称で語り始めた。刈り上げた栗色の髪に茶目っ気たっぷりの瞳。がっしりとした肩幅や、Tシャツの袖からのぞく鍛え上げられた上腕部は、どこからどう見ても「男性アスリート」の佇まいだ。
10月10日にインスタグラムやツイッターなどSNSを更新し、自身の性自認について「男性」であると公表。同時に、胸の手術を前にしたありのままの姿を記録したセミヌード写真をアップした。
「嘘をついていたわけではないんですけど、自分の一番大切にしている部分を隠している気がして。あとは特に若い世代に向けて、色々な生き方があってもいい、生き方として僕のような表現の仕方もあるよ、と勇気を与えられたらという思いです。悩みを抱えているのは自分だけじゃないんだとか、こんな風に壁を乗り越えたり受け入れている人もいるんだ、というメッセージになればと思っています」
女性として見られることが耐えられなかった
かつては自身を苦しめた、生物学上の“女性”としての「体」。写真に残し、投稿した理由をこんな風に語った。
「女性の体のパーツへの嫌悪感や葛藤は今でも、もちろんあります。でも、長く自分の心と身体と向き合うことですべてを受け入れて好きになることができた。日の目を見たことのないおっぱいなんですけどね(笑)。27年間お世話になった身体なので、ありがとうという意味も込めて撮影をしました」
アメリカ人の父と日本人の母の間の5人兄弟という家庭に育ったヒルさんが心の性と体の性との間に違和感を覚え始めたのは、バスケットボールを始めた10歳ごろのことだ。
「体がちょっとずつ変わり始めて……、という時期。ただ反抗期という感じではない、自分の体に対する嫌だと感じたことや、女性らしく扱われることに違和感を覚えたことがきっかけでした。一方で、かわいらしい服を着たり、“ギャル文字”を書いたり、周りに変な目で見られないために無理して(型通りの女の子らしさに)寄せている自分もいた。でも、誉め言葉として“かわいい”よりも“かっこいい”といわれるのが嬉しくて。これは一体、何なんだろうなと。小学6年生くらいになると、結構男子にモテたんですよ。でも女性として見られている感じが、僕は耐えられなかった」