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創業360年超「鍵屋」15代目は、花火と柔道のコロナ禍逆境にめげていない 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byRodrigo Reyes Marin/AFLO

posted2020/09/22 17:00

創業360年超「鍵屋」15代目は、花火と柔道のコロナ禍逆境にめげていない<Number Web> photograph by Rodrigo Reyes Marin/AFLO

例年行われている江戸川区花火大会は「宗家花火鍵屋」が担当している(写真は2014年のもの)

“花火大会の全体プロデュース”って?

 また鍵屋は日本において電気点火、遠隔操作についても先代の14代目により、昭和60年頃から実施しているのだという。海外では遠隔操作が主流となっているというが、演出面の向上とともに、花火師自身の安全を第一に考慮したものなんだという。知らないことは多い……。

 こうした技術開発とともに鍵屋が現在メインで行っている事業は“花火大会の全体プロデュース”である。花火大会を開催する場所、イメージなどによってそのテーマ性は千差万別だという。

「東京での花火大会ですと、民家が多く立ち並んでいるため、大きな花火を上げられず、小さな花火を組み合わせたものが主流です。『その中でどんな演出をしていきましょうか?』と応えていきます。

 大会ごとにどんな花火を打ち上げるかも、弊社で考えています。花火の特質には『色・形・光・音』があるのですが、例えば『芝桜』をイメージしている場合は……協力工場の中で、特に『濃厚なピンク』の花火を作り出すのが得意な工場のものを使う、といった具合に準備を進めていくんですよ」

 そんな準備は花火以外の部分でも進めている。例えば音響面もその1つ。「大会当日はナレーションで『桜吹雪の中で~富士~』といった大きなテーマを掲げていることを示したり、花火に合った音楽を選曲するなどしています」とのことだ。

「喜びや感動の間」を意識して

 それと並行して、会場では前述した遠隔操作のための電気配線などを準備する。例年の江戸川区花火大会では100人もの職人が作業し、安喜子さんは粉骨砕身で現場を統括しているのだ。

 そんな花火大会において特に意識していること。それは「間」なのだという。

「いい花火が上がると今でも『かぎやー』とお声をかけてくださいますが、その『声をかけてくださったら嬉しいな』というところでは、間を取ることもあるんです(笑)。大会の中で皆さんの心の機微、『喜びや感動の間』をできる限り感じ取っていくように心がけています。まったく関係のない隣の席の方とも共鳴できるような間を感じ取って、打ち上げる合図の手をおろす。プログラミングした中で打ち上げる中でアナログ的な作業ですが、そういったところを大事にしているんです」

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天野安喜子

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